・・・黄の平生密輸入者たちに黄老爺と呼ばれていた話、又湘譚の或商人から三千元を強奪した話、又腿に弾丸を受けた樊阿七と言う副頭目を肩に蘆林譚を泳ぎ越した話、又岳州の或山道に十二人の歩兵を射倒した話、――譚は殆ど黄六一を崇拝しているのかと思う位、熱心・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・が、偽目くらと挌闘中、ピストルの弾丸に中った巡査は、もう昏々と倒れていた。署長はすぐに活を入れた。その間に部下はいち早く、ピストル強盗の縄尻を捉えた。その後は署長と巡査との、旧劇めいた愁歎場になった。署長は昔の名奉行のように、何か云い遺す事・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・私も母上もお前たちも幾度弾丸を受け、刀創を受け、倒れ、起き上り、又倒れたろう。 お前たちが六つと五つと四つになった年の八月の二日に死が殺到した。死が総てを圧倒した。そして死が総てを救った。 お前たちの母上の遺言書の中で一番崇高な部分・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・十五人の男の歩く足音は、穹窿になっている廊下に反響を呼び起して、丁度大きな鉛の弾丸か何かを蒔き散らすようである。 処刑をする広間はもうすっかり明るくなっている。格子のある高い窓から、灰色の朝の明りが冷たい床の上に落ちている。一間は這入っ・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・そこがちょうど結び目の帯留の金具を射て、弾丸は外れたらしい。小指のさきほどの打身があった。淡いふすぼりが、媼の手が榊を清水にひたして冷すうちに、ブライツッケルの冷罨法にも合えるごとく、やや青く、薄紫にあせるとともに、乳が銀の露に汗ばんで、濡・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・――実は小松からここに流れる桟川で以前――雪間の白鷺を、船で射た友だちがあって、……いままですらりと立って遊んでいたのが、弾丸の響と一所に姿が横に消えると、颯と血が流れたという……話を聞いた事があって、それ一羽、私には他人の鷺でさえ、お澄さ・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・ 叔母とその奴婢の輩は、皆玄関に立併びて、いずれも面に愁色あり。弾丸の中に行く人の、今にも来ると待ちけるが、五分を過ぎ、十分を経て、なお書斎より来らざるにぞ、謙三郎はいかにせしと、心々に思える折から、寂として広き家の、遥奥の方よりおとず・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・敵は五六千メートルも隔ってるのに、目の前へでも来とる様に見えて、大砲の弾丸があたまの上で破裂しても、よそごとの様に思われ、向うの手にかかって死ぬくらいなら、こッちゃから死ぬまで戦ってやる云う一念に、皆血まなこになっとるんや。かすり傷ぐらい受・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・店の主人は子供に物を言って聞かせるように、引金や、弾丸を込める所や、筒や、照尺を一々見せて、射撃の為方を教えた。弾丸を込める所は、一度射撃するたびに、おもちゃのように、くるりと廻るのである。それから女に拳銃を渡して、始めての射撃をさせた。・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・こう思いながら、肩から、鉄砲をはずして、弾丸をこめて、その足跡を見失わないようにして、ついてゆきました。 裏山は、雲が切れて、秋の日があたたかそうに照らしていました。そして、二、三十メートルかなたに、大きなとちの木があって、熟した実がぶ・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
出典:青空文庫