・・・心配には及ばず候、これには奇々妙々の理由あることにて、天保十四年生まれの母上の方が明治十二年生まれの妻よりも育児の上においてむしろ開化主義たり急進党なることこそその原因に候なれ、妻はご存じの田舎者にて当今の女学校に入学せしことなければ、育児・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・そこで古風の人がタマに当今の人に其の御茶壺の話を仕て聞かせると、誰も噴飯して笑うので有りますが、当今の紳士の旅行の状態を見ると、余り贅沢過ぎて何の事は無い、つまり御茶壺になって歩いて居るのだ、と或人が評を仕ましたのを聞いて、甚だおかしいと思・・・ 幸田露伴 「旅行の今昔」
・・・うだってかまわない様子で、ただもう私の働きの無い事をののしり、自分ほど不仕合せの者は無いと言って歎き、たまに雑誌社の人が私のところに詩の註文を持って来てくれると、私をさし置いて彼女自身が膝をすすめて、当今の物価の高い事、亭主は愚図で頭が悪く・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ 然らば当今の女子、その身には窓掛に見るような染模様の羽織を引掛け、髪は大黒頭巾を冠ったような耳隠しの束髪に結い、手には茄章魚をぶらさげたようなハンドバッグを携え歩む姿を写し来って、宛然生けるが如くならしむるものはけだしそのモデルと時代・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・そして、それが、文学の大衆性への翹望などというものから湧いている気持ではなくて、当今、人気作家と云われている作家たちは阿部知二、岸田国士、丹羽文雄その他の諸氏の通りみな所謂純文学作品と新聞小説と二股かけていて、新聞小説をかくことで、その作家・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・そもそも批評とはどういうものであるかということを今日の事情の中で再び見きわめようと努力せずに、当今の批評家なり批評なりが規準を失い指導性を失っている、その現象を、その現象の枠内で論じている形であるのは遺憾である。 座談会記事のこの部分の・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・林房雄氏は、真面目な文学者評論家は当今意識的に文壇を離れたがっている、と云い、岸田国士氏は文壇が重荷になっている、と明言しておられる。そして、文学が大衆性とか指導力とかを持つようになるためには、実業家・官吏・軍人等の真面目な要求と共通するも・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・○p.346 十八歳のごくつまらない青年が、―― 当今大流行の、女を軽蔑するという習慣をもっている―― スタンダールの描写一、パルムの僧院では ウォータールーがおどろくべきものだった。二、緑の騎士で・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
出典:青空文庫