・・・ういう困難にぶつかると、女のひとはそれを我々の今日生きている社会のおくれた形から蒙っている男女の損失として見るより先に、わが心のうちに旧い呼び声をめざめさせられ、結局女はやっぱり女らしく、と新しい生活形態を創造してゆくための努力はすてる傾き・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 異国趣味を通じて、より進んだと信じられている文化形態を通じて、民族の人民的文化の質が隷属状態に変化してゆく危険がある場合、国際性は、はっきり、ブルジョア文学の個人主義にたつ世界人主義と区別されなければならない。また、観光用国土、人民と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・日清戦争の日本に於けるブルジョア文化の一形態であったキリスト教婦人同盟の主宰者として活躍した葉子の母の、権力を愛し、主我的な生き方に対して自然の皮肉な競争者として現われた娘葉子が、少女時代から特殊な環境の中で驚くべき美貌と才気とを発揮させつ・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・あるいは、文学をとおして大衆との結合というふうに相対の形態を考える。しかし、作家たちが社会機構の中で保守封建なものとたたかいながら、営利資本の圧力に抗しつつ自身とその芸術を新しくし、なおさらに新しい作家と文学とをもりたててゆこうと欲するとき・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・という集団的労作を子供らがみずから分業に組織したことを驚異した佐田が、そこから生産労働の分業について子供らに話しはじめれば、当然資本主義社会における矛盾形態としての分業の説明が必要となることを感じる。佐田は蟻の話と工場の話とを対照させる。児・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ベルリンに、日本に、売笑のあらゆる形態が生れ出ていることは、ファシズムの残忍非道な生活破壊の干潟の光景である。独善的に民族の優越性や民族文化を誇張したファシズム治下の国々が、ほかならぬその母胎である女性の性を、売淫にさらしていることはわたし・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・そのために、封建的な自我の剥脱に抗する心持と、新しい社会的事情に向っての闘争の過程で自己を拡大するため、集団的、階級的な形態で自我が認識されなければならないという事実との間に、面倒な理解の混乱が生じ勝ちであり、後者に反撥して自我を主張するこ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・女性にとって結婚とそれにひきつづいての家庭生活とは一つのものでありながらまた二つのものであって、ある人と結婚してもよいという気持と、在来の家庭の形態の中で女性が強いられて行かなければならないものをそのまま承引しかねる気持とは、若い向上欲のあ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・人間を取り巻く植物、家、道具、衣服等々の細かな形態が、深い人生の表現としての巨大な意義を、突如として我々に示してくれる。風物記はそのままに人間性の表現の解釈となっている。特に人間の風土性に関心を持つ自分にとっては、これらの風物記は汲み尽くせ・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・これらの演劇形態について詳しい知識を有する人が、一々の動作の仕方を細かく分析し比較したならば、そこにこれらの芸術の最も深い秘密が開示せられはしまいかと思われる。 一、二の例をあげれば、人形使いが人形の構造そのものによって最も強く把握して・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫