・・・しかし最初にベルグソンの精神を掴んだのは、独訳の Einfhrung in die Metaphysik[『形而上学入門』]であった。またどういう機会からであったか、今は思い出せないが、私は早くからメーン・ドゥ・ビランに非常に興味を有ってい・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・だが僕の学んだ部屋は、主としてニイチェの心理学教室であつた。形而上学者としてのニイチェ、倫理学者としてのニイチェ、文明批判家としてのニイチェには、僕として追跡することが出来なかつた。換言すれば、僕は権力主義者でもなく、英雄主義者でもなく、況・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・今日において、作者は、多く主観をひっこめて、現実のあるままの姿を描こうとしているようでありながら、その現実をうつす鏡は作者が今日の生活の波濤に対して辛くも足がかりとして保とうとするその人々の形而上学であると思える。この事実は例えば「幸福」に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ もしバルザックが、あの経済機構の看破の上に一歩進めて理想を持ち得たとしたら、それは当然の結果としてジョルジュ・サンドの理想主義のような形而上学的な性質のものではなかったろうことは明白ではなかろうか。遙に具体的で社会の現実を現実的に変更・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・河合栄治郎氏が、氏としての熱誠を傾けたこの論文の中で、若き時代に健全な人間性を取り戻すためには、従来の意味での形而上学的の理想主義の人生観を彼等の中に確立させてやらねばならないと主張しておられる。「希望館」の山村がそれに対する闘いは全く放棄・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・すなわち、菅氏は、形而上学によって整理・構成されている自分の理性、過去の形式論理にしたがって操作される自身の理性の機能を、たたかいの現実にしたがって拡大することも出来なかったし、縮小させることも出来なかったのでした。 自由党の委員篠田が・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・そしてそれが倫理を変化させる。形而上学を変化させる。Schopenhauer は衝動哲学と云っても好い。系統家の Hartmann や Wundt があれから出たように、Aphorismen で書く Nietzsche もあれから出た。発展・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 別に読もうという気もなしに、最初のペエジを開けて見ると、おもちゃの形而上学という論文がある。何を書いているかと思って、ふいと読み出した。 ボオドレエルが小さいとき、なんとかいうお嬢さんの所へ連れて行かれた。そのお嬢さんが部屋に一ぱ・・・ 森鴎外 「花子」
・・・神の子の信仰は象徴的の意味においてさえも形而上学的空想以上の何ものでもない。世界は確かに古昔の元子論者が見たごとくある基本要素の離合散集によって生じたのである。霊魂は肉体の作用であり肉体とともに滅びる。死とは活動の休止であり組織の解体である・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・先生はすでに独特な体系を築き上げている。形而上学でも倫理学でも宗教学でもすべて先生の独特な原理で一貫している。僕たちはその講義を聞いて来たのだ。よく解ったとはいえないけれども、よほど素晴らしいもののように思う。しかし自分たちが敬服したのは、・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫