・・・ カムパネルラは、その紙切れが何だったか待ち兼ねたというように急いでのぞきこみました。ジョバンニも全く早く見たかったのです。ところがそれはいちめん黒い唐草のような模様の中に、おかしな十ばかりの字を印刷したものでだまって見ていると何だかそ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・すると式の時間を待ち兼ねたのは、あながち私たちだけではありませんでした。教会へ行く途中、あっちの小路からも、こっちの広場からも、三人四人ずついろいろな礼装をした人たちに、私たちは会いました。燕尾服もあれば厚い粗羅紗を着た農夫もあり、綬をかけ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 十二時すぎに、待ち兼ねて居たものが来た。 葉書の走り書きで、今日の午後に来ると云ってよこしたんで急に書斎でも飾って見る気になる。 机の引出しから私だけの「つやぶきん」を出して本棚や机をふいて、食堂から花を持って来たり、鼠に食わ・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 一番待ち兼ねて居た様な様子をしてお金は顔を見るなり飛び出した様な声で、 どうでしたえと云った。 中腰になって部屋の角へ、外套だの、ネルの襟巻だのをポンポン落してから、長火鉢の方へよって来た栄蔵はいつもよりは明るい調・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ ここまで傍聴していた奥さんが、待ち兼ねたように、いろいろな話をし掛けると、秀麿は優しく受答をしていた。この時奥さんは、どうも秀麿の話は気乗がしていない、附合に物を言っているようだと云う第一印象を受けたのであった。 それで秀麿が座を・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 号砲に続いて、がらんがらんと銅の鐸を振るを合図に、役人が待ち兼ねた様に、一度に出て来て並ぶ。中にはまかないの飯を食うのもあるが、半数以上は内から弁当を持って来る。洋服の人も、袴を穿いた人も、片手に弁当箱を提げて出て来る。あらゆる大さ、・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・ その次の日の新聞を、近所の人は待ち兼ねて見た。記事は同じ文章で諸新聞に出ていた。多分どの通信社かの手で廻したのだろう。しかし平凡極まる記事なので、読んで失望しないものはなかった。「小石川区小日向台町何丁目何番地に新築落成して横浜市・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫