・・・妙泉寺で待ち合わせるはずでしたねい」 こういわれてようやくの事いくらか気がついてか、「それじゃ少し急いでゆきましょう」 家の子村の妙泉寺はこの界隈に名高き寺ながら、今は仁王門と本堂のみに、昔のおもかげを残して境内は塵を払う人もな・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ 省作はこんなことをひとりで言って、待ち合せる恋人がそこまで来たのも知らずにおった。お千代が、ポンポンと手を叩く、省作は振り返って出てくる。「省さん、暢気なふうをして何をそんなに見てるのさ」「何さ立派なお堂があんまり荒れてるから・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・換言すれば週期的運動の位相がほぼ等分にちがっているほうが乗客の待ち合わせる時間を均等にし従って乗客の数を均等に分布する点で便利であろうと思われる。しかし実際には三つがほぼ同時に同じ階を同じ方向に通過する場合が多いように思われる。もっともそう・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・大尉夫人だけはここでひとり一行から別れて向こうの辻でわれわれを待ち合わせるように取り計らわれた。街路の人道から入り口へ踏み込むとすぐ右側に石のベンチのようなものがいくつか並んでいるだけで、狭い低い暗い部屋というだけであった。よく見ると天井に・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫