・・・甚太夫は平太郎の死に責任の感を免れなかったのか、彼もまた後見のために旅立ちたい旨を申し出でた。と同時に求馬と念友の約があった、津崎左近と云う侍も、同じく助太刀の儀を願い出した。綱利は奇特の事とあって、甚太夫の願は許したが、左近の云い分は取り・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・私はその楢山夫人が、黒の紋付の肩を張って、金縁の眼鏡をかけながら、まるで後見と云う形で、三浦の細君と並んでいるのを眺めると、何と云う事もなく不吉な予感に脅かされずにはいられませんでした。しかもあの女権論者は、骨立った顔に薄化粧をして、絶えず・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・――町の、右の、ちゃら金のすすめなり、後見なり、ご新姐の仇な処をおとりにして、碁会所を看板に、骨牌賭博の小宿という、もくろみだったらしいのですが、碁盤の櫓をあげる前に、長屋の城は落ちました。どの道落ちる城ですが、その没落をはやめたのは、慾に・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ といいながら日暮際のぱっと明い、艶のないぼやけた下なる納戸に、自分が座の、人なき薄汚れた座蒲団のあたりを見て、婆さんは後見らるる風情であったが、声を低うし、「全体あの爺は甲州街道で、小商人、煮売屋ともつかず、茶屋ともつかず、駄菓子・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ 気をかえて屹となって、もの忘れした後見に烈しくきっかけを渡す状に、紫玉は虚空に向って伯爵の鸚鵡を投げた。が、あの玩具の竹蜻蛉のように、晃々と高く舞った。「大神楽!」 と喚いたのが第一番の半畳で。 一人口火を切ったから堪らな・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ばかめ、こんな爺さんを掴めえて、剣突もすさまじいや、なんだと思っていやがんでえ、こう指一本でも指してみろ、今じゃおいらが後見だ」 憤慨と、軽侮と、怨恨とを満たしたる、視線の赴くところ、麹町一番町英国公使館の土塀のあたりを、柳の木立ちに隠・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ 大息を吐いて、蒲団の上へ起上った、小宮山は、自分の体か、人のものか、よくは解らず、何となく後見らるるような気がするので、振返って見ますると、障子が一枚、その外に雨戸が一枚、明らさまに開いて月が射し、露なり、草なり、野も、山も、渺々とし・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・……第一そこらにひらひらしている蝶々の袖に対しても、果報ものの狩衣ではない、衣装持の後見は、いきすぎよう。 汗ばんだ猪首の兜、いや、中折の古帽を脱いで、薄くなった折目を気にして、そっと撫でて、杖の柄に引っ掛けて、ひょいと、かつぐと、・・・ 泉鏡花 「若菜のうち」
・・・然るに喜兵衛が野口家の後見となって身分が定ってから、故郷の三ヶ谷に残した子の十一歳となったを幸手に引取ったところが、継の母との折合が面白くなくて間もなく江戸へ逃出し、親の縁を手頼に馬喰町の其地此地を放浪いて働いていた。その中に同じ故郷人が小・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・が肝腎だから、女の方がかえって愛嬌があって客受けがイイという話、ここの写真屋の女主人というは後家さんだそうだが相応に儲かるという咄、そんな話を重ねた挙句が、「官吏も面白くないから、女の写真屋でも初めて後見をやろうかと思う、」と取っても附かな・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
出典:青空文庫