・・・彼はただ従僕のように、想像のあとについて、引きずりまわされた。 想像は、いつのまにか、彼を丸文字屋の店へ引っぱって行っていた。丸文字屋へは、金持ちの客が沢山行っている。と、そこに、お里もしょんぼり立っていた。彼女は、歩くことまで他人に気・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・ 主人公の老富豪が取引所の柱の陰に立って乾坤一擲の大賭博を進行させている最中に、従僕相手に五十銭玉一つのかけをするくだりがある。そのかけにも老主人が勝ってそうしてすまして相手の銭をさらって、さて悠々と強敵と手詰めの談判に出かけるところに・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかし従僕が膳部を下げにはいって見ると、急に心臓麻痺を起していたので、急いで夫人を呼んで来た。それから間もなくもうすべてが終ってしまった。 葬式はターリングで行われた。キングは名代を遣わして参列させ、その他ケンブリッジ大学や王立協会の主・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ 若し彼女が自身の力さえあれば、どんな大きな邸宅に百人の従僕を使って暮す事が出来ると倶に、どこかアパートメント只一つの部屋をかりて、男のような服装で暮したとて、誰も、其を非難したり変更させたりするものはございますまい。皆、各自の力でござ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫