・・・市内電車従業員の罷業のうわさも伝わって来るころだ。植木坂の上を通る電車もまれだった。たまに通る電車は町の空に悲壮な音を立てて、窪い谷の下にあるような私の家の四畳半の窓まで物すごく響けて来ていた。「家の内も、外も、嵐だ。」 と、私は自・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・などと何の意味も無いような意見を述べても、映画界の幹部たちはひとしく感奮し、ただちに映画界の全従業員を集めて、「実にこの娯楽味を忘れてはなりませぬです」という一場の訓辞をこころみるかも知れないのだから、人の気持って微妙なものだ。 私だっ・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・ 九 東京市電気局の争議で電車が一時は全部止まるかと思ったら、臨時従業員の手でどうにか運転を続けていた。この予期しなかった出来事は、見方によっては、東京市民一般に関するいろいろな根本問題を研究するために必要あるい・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・五日に二度発行、十頁、オムスク鉄道バラビンスキー停車場内鉄道従業員組合ウチーク・そこが編輯所である。モスクワ発行の『イズヴェスチア』『プラウダ』なんかはもうどんなにしたって二十五日以後のものはよめっこない。我々は特急にのっている。我々の列車・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・勤労時間を一部さいて、そういう専門の講習を与えるように、婦人職員、従業員の価値は重んじられていない。そうだとすれば、同一労働同一賃銀ということは、勤労婦人自身にとって自信のあるよりどころを持っていないことになる。そのために、労働基準法で、母・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
・・・ 木橋を境にして、九千人の従業員をもつモスク第一の金属工場「鎌と鎚」が、蜒々と煉瓦壁をのばしている。「郵便」と書いた板の出ている小さい入口をわれわれは入って行った。ここに、鎌と鎚工場の工場新聞の発行所がある。そして、文学研究会の中心・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ 労働法が出来たけれども、国鉄従業員が尤もな待遇改善を求めると、当局はそれを拒むことの出来ない代りに、忽ち、運賃値上げをして、人民の負担に転化する。逓信院の値上げにしても同様である。何十万人という従業員は、やっといくらか給料がよくなった・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・国鉄の名もない被整理従業員たちのだれかれの一家の、妻や子や年よりのおどろき、怨み、歎きとその本質は一つもちがうところのない恐慌が、故人の一家をおそったであろうという想像も許されるだろう。けれども、それに対してとられた抵抗と防衛の手段は、故人・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・各級には、衛生委員、従業委員、社会活動委員等がある。それらの委員から一級一人ずつの代表が出て、学校長、教師代表、労働組合からの代表などと一緒に学校委員会を組織する。 遠足をやるにしても、遠足の実行委員があげられ、行先、時間割、見学予定、・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・地下鉄ではついこの三月二十日から三日間従業員約百名内出札の婦人四〇名が参加して地下の引込線を利用して車輌四台を占領し、全国的注意を喚起したストライキをやった。原因は出征従業員を会社側で欠勤扱いにしたことであった。「触ルト死ぬゾ」と大書した紙・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫