一 年中夫婦喧嘩をしているのである。それも仲が良過ぎてのことならとにかく、根っから夫婦一緒に出歩いたことのない水臭い仲で、お互いよくよく毛嫌いして、それでもたまに大将が御寮人さんに肩を揉ませると、御寮人さんは大将のうしろで拳骨を・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ もとよりその頃は既に身うけされて、朝鮮の花街から呼び戻され、川那子家の御寮人で収まっていたお千鶴は、「――ほかのことなら辛抱できまっけど、囲うにこと欠いて、なにもわての従妹を……」 と、まるで、それがおれのせいかのように、おれ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・おとみは木屋町へ帰って何と報告したのか、それから四、五日すると、三十余りの色の黒い痩せた女がおずおずとやってきて、あの、こちらは寺田屋の御寮人様で、あ、そうでございましたかと登勢の顔を見るなり言うのには、じつは手前どもはもう三年前からこちら・・・ 織田作之助 「螢」
出典:青空文庫