・・・生死は運動の方則のもとに、絶えず循環しているのである。そう云うことを考えると、天上に散在する無数の星にも多少の同情を禁じ得ない。いや、明滅する星の光は我我と同じ感情を表わしているようにも思われるのである。この点でも詩人は何ものよりも先に高々・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そのなよなよした姿のほほえみが血球となって、僕の血管を循環するのか、僕は筋肉がゆるんで、がッかり疲労し、手も不断よりは重く、足も常よりは倦怠いのをおぼえた。 僕の過敏な心と身体とは荒んでいるのだ。延びているのだ。固まっていた物が融けて行・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・そしてそれらは、波の寄せては返すように、循環しているものであろう。誰でもが自分の生活を享楽と、総て喜びでありたいと願うだろうが、併しそれは、健康な者が常に健康ではあり得ないように、少しの間隙が生ずれば、直に不安は襲うて来るであろう。又それは・・・ 小川未明 「波の如く去来す」
・・・と言いますので、医師に相談しますと、医師はこの病気は心臓と腎臓の間、即ち循環故障であって、いくら呑んでも尿には成らず浮腫になるばかりだから、一日に三合より四合以上呑んではよくないから、水薬の中へ利尿剤を調合して置こうと言って、尿の検査を二回・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・その自信を持たしてくれるのは、自分の仕事の出来栄えである。循環する理論である。だから自信のあるものが勝ちである。拙宅の赤んぼさんは、大介という名前の由。小生旅行中に女房が勝手につけた名前で、小生の気に入らない名前である。しかし、最早や御近所・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 性が主なのか、愛が主なのか、卵が親か、鶏が親か、いつまでも循環するあいまい極まる概念である。性的愛、なんて言葉はこれは日本語ではないのではなかろうか。何か上品めかして言いつくろっている感じがする。 いったい日本に於いて、この「愛」・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・路草を食う楽しさを知らなかった。循環小数の奇妙を知らなかった。動かざる、久遠の真理を、いますぐ、この手で掴みたかった。「つまりは、もっと勉強しなくちゃいかんということさ。」「お互いに。」徹宵、議論の揚句の果は、ごろんと寝ころがって、そう・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・しかしそのような状態はいつまでも持続するわけではなくて、これと反対な倦怠の状態も週期的に循環して来た。そういう時には何を読んでも空虚であった。そこに書いてある表面の意味をとらえる事すら困難であった。そうした時に手帳をあけて自分の書いてある暗・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・ これらの根本的決定因子を知るには一体どこを捜せばよいかというと、それはおそらく颱風の全勢力を供給する大源泉と思われる北太平洋並びにアジア大陸の大気活動中心における気流大循環系統のかなり明確な知識と、その主要循環系の周囲に随伴する多数の・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・その反対に、茶わんのまん中のほうでは逆に上のほうへのぼって、表面からは外側に向かって流れる、だいたいそういうふうな循環が起こります。よく理科の書物なぞにある、ビーカーの底をアルコール・ランプで熱したときの水の流れと同じようなものになるわけで・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
出典:青空文庫