・・・モスコフスキーはこれを敷衍して「婦人は微分学を創成する事は出来なかったが、ライプニッツを創造した。純粋理性批判は産めないが、カントを産む事が出来る」と云っている。 話頭は転じて、いわゆる「天才教育」の問題にはいる。特別の天賦あるものを選・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・分子の集団から成る物体を連続体と考えてこれに微分方程式を応用するのが不思議でなければ、色の斑点を羅列して物象を表わす事も少しも不都合ではない。 もう少し進んで科学は客観的、芸術は主観的のものであると言う人もあろう。しかしこれもそう簡・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 物理学で用いられる数学の中でも最も重要なものはいわゆる微分方程式である。これは物理学的ないろいろな量の相互の関係を決定する数式であるが、それがそれらの量自身の間の関係を示すだけでなく、一つの量が少し変わったときに他の量がそれにつれて少・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ポアンカレーの言葉を借りて云わば、前者は源因の微分的変化に対して結果の変化がまた微分的である場合に当り、後者は源因の微分的差違が結果に有限の差を生ずる場合である。 一本の麻縄に漸次に徐々に強力を加えて行く時にその張力が増すに従って、その・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・理論的に言えば、破壊の起こる直前までの過程についてはプラスティックな物体の力学からある程度まではこぎつけられるが、ほんとうに破壊が起こり始めたが最後、もう始めの微分方程式も境界条件も全部無効になるから、これらの理論はその後の事がらについては・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・これらの場合を総括するに、いずれもかつてポアンカレーの述べしごとく「原因の微分的変化が結果の有限変化を生ずる場合」に当るを見る。自然現象予報の可能程度を論ずる際に忘るべからざる標準の一つはここに係る。後に更に実地問題につきて述ぶる事とせん。・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・暗はいっさいであって明は微分である。悲観する人はここに至って自棄する。微分を知っていっさいを知らざれば知るもなんのかいあらんやと言って学問をあざけり学者をののしる。 人間とは一つの微分である。しかし人知のきわめうる微分は人間にとっては無・・・ 寺田寅彦 「知と疑い」
・・・ フランスの文学美術書が科学書といっしょに露店式に並べてある所がある、シャバンヌやロダンが微分積分と雑居してそれにずいぶんちりが積もっている事もある。それはいいがその隣にガラスの蔽蓋をして西洋向きの日本書を並べたのがある。あれを見ると自・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・しかしあらゆる可能な漫画家を一団として見る時には、各画家を微分とした無限項の和としての積分は渾然たる一つの定まった極限値を有する「真の」一面と考えるに不都合があるだろうか。 科学上の真を言明するために使用する言語や記号は純化され洗煉され・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調子はずれの高い言葉も、調和を破るために禁じられる。道を歩く時にも、手を一つ動かす時にも、物を飲食する時にも・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
出典:青空文庫