・・・ かるが故にわれは今なお牧場、森林、山岳を愛す、緑地の上、窮天の間、耳目の触るる所の者を愛す、これらはみなわが最純なる思想の錨、わが心わが霊及びわが徳性の乳母、導者、衛士たり。 ああわが最愛の友よ(妹ドラ嬢を指、汝今われと共にこの清・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・人性の徳性の花の咲き盛らないような、物的福利の理想社会とは理想社会の名に価しないからである。 以上自分は与えられたスペースで、青年の教養に資する視点から、倫理学研究の手引きのようなものを書いた。書くべき多くのものが残された。中世期の神秘・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・第一、浪漫派の内容から言うと、前申した通り忠臣が出て来たり、孝子が出て来たり、貞女が出て来たり、その他いろいろの人物が出て来て、すべて読者の徳性を刺激してその刺激に依って事をなす、すなわち読者を動かそうと云う方法を講じますから、その刺激を与・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・良書は内容の徳性に加えて、子供の心理の抑揚の溌剌さが尊重されていなければならないと思う。 宮本百合子 「“子供の本”について」
・・・スペインのこんにちの燃え立つ階級間の争闘を、柳沢健氏が、その民族の持っている一本気で純朴で誠実な徳性によって、惨虐性にまで進められてあるのだと説明していることだけにあきたりないと同じように。思想的・文学的な内容において情熱という言葉が日本に・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・日本の女の徳性は、家庭にあってよい娘、よい妻、よい母となるのが完成の目的であって、よい妻、よい母となることはあるいはたやすいことと思えでもしたのだろう。その大事業に対する女の責任を全うするためには男と同じような頭脳の鍛錬は必要なことと見られ・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ 或は、ロザリーと云う名は、現代の女性一般に与えられた名で、近代社会が生んだ女性の性格、徳性の欠陥としての事業熱、対社会の活動慾等の、消長史と見るべきでしょうか。〔一九二三年十二月〕・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
出典:青空文庫