・・・、めくら縞の襟の剥げた、袖に横撫のあとの光る、同じ紺のだふだふとした前垂を首から下げて、千草色の半股引、膝のよじれたのを捻って穿いて、ずんぐりむっくりと肥ったのが、日和下駄で突立って、いけずな忰が、三徳用大根皮剥、というのを喚く。 ・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・結城以後影を隠した徳用・堅削を再出して僅かに連絡を保たしめるほかには少しも本文に連鎖の無い独立した武勇談である。第九輯巻二十九の巻初に馬琴が特にこの京都の物語の決して無用にあらざるを強弁するは当時既に無用論があったものと見える。一体、親兵衛・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・青扇はだまって勝手元のほうへ立って行って、大箱の徳用マッチを持って来た。「なぜ働かないのかしら?」僕は煙草をくゆらしながら、いまからゆっくり話込んでやろうとひそかに決意していた。「働けないからです。才能がないのでしょう。」相変らずて・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
出典:青空文庫