・・・ 私はこの人の学者らしい徹底したアカデミックなしかたに感心すると同時に、なんだかそこに名状のできない物足りなさあるいは一種のはかなさとでもいったような心持ちがするのを禁ずる事ができなかった。なんだかこれでは自分がベデカの編者それ自身にな・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・解決の出来ぬように解釈された一種の事件として統一家、徹底家の心を悩ます例となるかも分らない。 博士制度は学問奨励の具として、政府から見れば有効に違いない。けれども一国の学者を挙げて悉く博士たらんがために学問をするというような気風を養成し・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・腹の中の煮え切らない、徹底しない、ああでもありこうでもあるというような海鼠のような精神を抱いてぼんやりしていては、自分が不愉快ではないか知らんと思うからいうのです。不愉快でないとおっしゃればそれまでです、またそんな不愉快は通り越しているとお・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・それはかつてデカルトが『省察録』において用いた如く、懐疑による自覚である、meditari である。それは徹底的な否定的分析でなければならない。彼は『省察録』の第二答弁において証明 dmontrer の仕方に二通りあるという。一つは分析 a・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 日本の戸籍と、公文書から、士族、平民、私生子という差別が徹底してとりのぞかれたのは、昭和十四、五年ころになってだろうか。侵略戦争を強行し、すべての人民を戦争目的に動員するために、日ごろの差別感情をとりのぞく必要が感じられたからであった・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ けれども、舞台に現れただけでは、決して其企図が徹底されているとは思われない。早苗姫が、真個にいとしかったのだが、万事が逆転して子には叛かれ、愛人には怨死されるのか、其とも、只、我ものになるからには飽くまでも服させずには置かない故に口説・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ もし、今日の食糧事情が、真に公の問題としてとりあげられているならば、政府はどうして土地問題の解決というような、根本の、公の方法から、徹底させてゆかないのでしょう。一人一人の財布ではもう背負い切れない負担である「わたくしの方法」買出・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・のであるが、しかし彼が新しい時代に対して抱いたのはただ恐怖のみであって、新しい建設への見通しでもなければ、新しい指導的精神の思索でもなかった。『樵談治要』のなかに彼は「足軽」の徹底的禁止を論じている。足軽は応仁の乱から生じたものであるが、こ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ 私は徹底を欲して断然身を処した。そうして今はその徹底のなかから不徹底の生まれ出たのを見まもっている。私は二つの苦しみのいずれからも脱れることができない。三 何ゆえに私は彼らを愛したか。 第一の理由は直接的である。私・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・ 元来先生は軽々しく解決や徹底や統一を説く者に対して反感を持っていた。人生の事はそう容易に片づくものでない。頭では片づくだろうが、事実は片づかない。――しかしこれは片づける事自身に対する反感ではなくて、人生の矛盾や撞着をあまりに手軽に考・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫