・・・を受取りますつもりなのでございましたが、なぶってやろう、とおっしゃって、奥様が御自分に烏の装束をおめし遊ばして、塀の外へ――でも、ひょっと、野原に遊んでいる小児などが怪しい姿を見て、騒いで悪いというお心付きから、四阿へお呼び入れになりました・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・画家 (はじめて心付きたる状どうも、これは失礼しました。いや、端から貴女がなさると思った次第でもありません。ちょっと今時珍しかったものですから。――近頃は東京では、場末の縁日にも余り見掛けなくなりました。……これは静でしょうな。裏を返す・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・私は余り折檻が辛うございますから、確に思い切りますと言うんですけれども、またその翌晩同じ事を言って苦しめられます時、自分でも、成程と心付きますが、本当は思い切れないのでございますよ。 どうしてこれが思い切れましょう、因縁とでも申しますの・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・道端に竹と材木が林の如く立っているのに心付き、その陰に立寄ると、ここは雪も吹込まず風も来ず、雪あかりに照された道路も遮られて見えない別天地である。いつも継母に叱られると言って、帰りをいそぐ娘もほっと息をついて、雪にぬらされた銀杏返の鬢を撫で・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・明の諸外国に対して、その交際の公私に論なく、ややもすれば意の如くならざるは、原因のある所、一にして足らずといえども、我が男子が徳義上に軽侮を蒙るの一事は、その原因中の大箇条なるが故に、いやしくもこれに心付きたる者は、片時も猶予せずしてその過・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 家族に喫煙する者がないので、道具の出してないのに心付き、私は火鉢を彼の近くに押してやった。 彼は「いや、どうも」と云い乍ら、こごんで巻煙草に火をつけ、一ふきふかすと、直ぐ「其じゃあ失礼致しましょうか」と云い出した。・・・ 宮本百合子 「或日」
出典:青空文庫