・・・孜々として読書している青年たちを見ると、あの中から世を驚かす未来の天才が出てくるのであろうかと心強い気がする。「予を秀才といふはあたらず、よく刻苦すといふはあたれり」といった頼山陽の言は彼のすなおな告白であったに相違ない。 つとめて・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・火鉢の鉄瓶の単調なかすかな音を立てているのだけが、何だか心強いような感じを起させる。眼瞼に蔽いかかって来る氷袋を直しながら、障子のガラス越しに小春の空を見る。透明な光は天地に充ちてそよとの風もない。門の垣根の外には近所の子供が二、三人集まっ・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・北米の南方ではわがタイフーンの代わりにその親類のハリケーンを享有しているからますます心強いわけである。 西北隣のロシアシベリアではあいにく地震も噴火も台風もないようであるが、そのかわりに海をとざす氷と、人馬を窒息させるふぶきと、大地の底・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・しかし同時にその弱さの素因がいくらか科学的につきとめられて従ってその療法の見当がつくとすれば、それはまたこの上もない心強い喜ばしい事である。 実際自分のようなものでも、健康のぐあいがよくて精力の満ちているような場合に、このような変則な笑・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ 心の立ち勝った妹を助手として持つと云う事は、何か一生の仕事を定めて、勉める姉の身としてどれほど心強いか分らない。 如何に弟達は、立派に又、数多あっても、何かにつけ細かに心づけて呉れるものは、妹に及ぶものはないのである。 私は此・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・ 別にいやがりもしない様子を図々しいなあとも思ったけれど心強い様にも思った。 翌日の午前、宿へ電話をかけてから千世子は二三枚の着換とその他の細っかいものを入れた。 そして女中に留守中の小使銭をわたし、来た手紙の至急なのはあっちへ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・向うへ行って秋田雨雀さんなどと御会いも出来ると思いますし、ロシヤ語の出来る湯浅さんが一所ですから心強い次第です。〔一九二七年十一月〕 宮本百合子 「ロシヤに行く心」
・・・ いずれにしても小林氏が自己の直接な感情を画面に投げ出そうとしているのは感情のない画の多い院展日本画にとっては心強い。氏が『竹取物語』のごとき邪路に入らずに、ますます自己に忠実な画の製作に努められんことを祈る。 例外の二は川端龍子氏・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫