・・・右を見、左を見、体はひきそばめて、咄嗟に翔び立つ心構えを怠らない。可愛く、子供らしく、浮立って首を動かすのではない。何か痛ましい、東洋の不純な都会風の陰翳が、くっきり小さい体躯に写し出されて居るのである。 私は、その雀が、何かに怯えて、・・・ 宮本百合子 「餌」
今年はいろいろな意味で非常に重大な年だと思います。それで個人の抱負と云う様な小さいものでなく、大きく日本人全体としての心構えとでも申しましょうか、それでよろしいでしょうね…… 私達の生きている二十世紀も今年で丁度一九五・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ この時勢を生きるための作家の心構えなど、いまの私には聰明ぶって説き立てる勇気はないが、私にはこう云う時勢の中で、作家にとって最も大切なものは、執拗な凝視であると強調したい一念を抑え難い。」 日本文学のなかでたとえそれがどんな形で経・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・三月に入るとすぐ、自分達の心構えを知らせ、上京を促した。私は、悦ばしく、自分の出来る限りを尽す気持で、派手になった十七八頃の銘仙衣類等を解いて、彼の使うべき夜着になおしたり何かした。 彼も来られると云う。四月の始め迄居る積りで、三月の二・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・これらの言葉は本来は争闘の技術を言い現わしていたのであるが、そこに「心構え」が問題とされるようになると、明白に道徳的な意味に転化して来る。そうしてそこで中心的な地位を占めるのは、自敬の念なのである。おのれが臆病であることは、おのれ自身におい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫