・・・これは芸術に志す者の第一の本業である故に、絶え間なく書かねばならぬ。芸術は一つの技術である。技術は何によらず練習するより他に上達する道はない。一つ書くごとに成長してゆくものである。ロダンなどは絶え間なく練習していたということである。・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・されど、之等は要するに皆かれの末技にして、真に欽慕すべきは、かれの天稟の楽才と、刻苦精進して夙く鬱然一家をなし、世の名利をよそにその志す道に悠々自適せし生涯とに他ならぬ。かれの手さぐりにて自記した日記は、それらの事情を、あますところ無く我ら・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・女のほうは頭のいいようなのが映画を志す、男の頭のいいのは他の方面にいくらも道があってみんなそのほうへ行ってしまう、といったようなこともいくらかあるのではないかという気がする。ただし男のほうにも自分の知っているだけでも四五人くらいは相当頭のい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかし、この個人的な経験はおそらく一般的には応用が利かないであろうし、ましてや、科学の神殿を守る祭祀の司になろうと志す人、また科学の階段を登って栄達と権勢の花の山に遊ぼうと望む人達にはあまり参考になりそうに思われないのである。ただ科学の野辺・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・ 眼前の小利害にのみ齷齪せず、真に殖産工業の発達を計り、世界の進歩に後れぬようにしようと志す人は、もう少し基礎的科学の研究を重んじ、またこれを応用しようという場合には、少し気を永くしてあまりに急な成効を期待しないようにしなければならぬと・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ わたしは平生文学を志すものに向って西洋紙と万年筆とを用うること莫れと説くのは、廃物利用の法を知らしむる老婆心に他ならぬのである。 往時、劇場の作者部屋にあっては、始めて狂言作者の事務を見習わんとするものあれば、古参の作者は書抜の書・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・政治を論じたり国事を憂いたりする事も、恐らくは貧家の子弟の志すべき事ではあるまい。但し米屋酒屋の勘定を支払わないのが志士義人の特権だとすれば問題は別である。 わたくしは教師をやめると大分気が楽になって、遠慮気兼をする事がなくなったので、・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・今でも私は時に J'agis, jeveux, donc je suis[我行為す、我意志す、故に我あり]などいう語を引用することがある。しかしクーザンの出版したものは、遂に手に入れることができなかった。従って受働的習慣と能働的習慣との区別・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・ただに今日、熱中奔走する者のみならず、内外に執行する書生にいたるまでも、法律を学ぶ者は司法省をねらい、経済学に志す者は大蔵省を目的とし、工学を勉強するは工部に入らんがためなり。万国公法を明らかにするは外務の官員たらんがためなり。かかる勢にて・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・一、官の学校にある者は、みずからその学識を測量せずして、にわかに仕官に志すの弊あり。けだしその達路近ければなり。その失、四なり。一、官の学校は、官とその盛衰をともにして、官に変あれば校にも変を生じ、官、斃れば校もまた斃る。はなはだし・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
出典:青空文庫