・・・それにまあ、なめくじばけもののような柔らかなおあしに、硬いはがねのわらじをはいて、なにが御志願でいらしゃるのやら。おお、うちのせがれもこんなわらじでどこを今ごろ、ポオ、ポオ、ポオ、ポオ。」とそのおかみさんばけものは泣き出しました。ネネムは困・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・若い女のひとの興味趣味などに沿うて、雑誌の編輯員の中には、今日一人や二人きっとこういう種類の若い女の技術志願兵、実は女の労働力・才能・教養を社会的にダンピングしている人がいるのです。 それらの若い女の人たちはもちろん微塵の悪意もないので・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 昭和十一年三月という、今日では殆ど用に足りない古い統計でさえ、甲種実業学校の入学志願者は十九万人近く、入学者は十万五千三百九十八人という数を示している。 昭和七年に比べると、志望者は七万余人、入学者は二万人近く増して来ていたのであ・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・みんな金属工場から志願し、選抜されて来ている連中だ。大柄な、頼もしい婦人青年同盟員たちだ。 寄宿舎を、やはり女で、政治的活動をやっている同志に案内されて見学したとき彼女は、或ひとつのドアを外からコツコツと叩いた。内から元気な若い女の声が・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・それだからこそ、映画女優を志願して、故郷のオクラホマからハリウッドへは行かずニューヨークへ出たミス・スチュアートが、メトロ映画会社に認められて契約を結んだ、というような小事実が、僥倖の一つとして日本の読者にまで写真入りで伝えられるのである。・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・「自分一人で志願囚となるよりは」「皆で背負ってゆくのも同じだと妄想し出し、十月十三日、二日ほど拒んだのですが、紙と鉛筆とをわたされ私一人の自白と同じような気持からスラスラ書いてしまったのです。翌日、自分一人ならまだしも仲間まで関係づけたこと・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ひどく人気のすくない事務所の内で監督らしいのが往来へ背を向けて立ち、その前で臨時志願の男が四人ばかり、書類へ何か書きこんでいるのが走って行く電車の上から見えた。 九時すぎて、電車、バスの罷業破り運転も休止すると、電車通りを円タクが乱・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ 彼は自分のところへ作家志願の希望をのべて寄越した二つの手紙をわれわれに比べてみせ、それを批判している。一人の労働者はこういう意味をかいた。「ああ、実に私の生活はくさくさします、せめて小説でも書かねばいられません、私は作家になりたい・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
出典:青空文庫