・・・そしてそれに応じるような段取りで話をすすめた。彼は戦争をすることなどは全然秘密にしていた。 十五分ばかりして、彼は、二人の息子を馭者にして、ペーターが、二台の橇を聯隊へやることを承諾さした。「よし、それじゃ、すぐ支度をして聯隊へ行っ・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・そう考える以上は、場合によっては自分の大事な研究時間をずいぶん思い切って割いても世間の要求に応じるために忙しい想いをし、従ってそれだけの心のエネルギーを余計に消磨させなければならない。 これは止むを得ない事かもしれない。そして私はそうい・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そういう、鳥にとってはおそらく生れて以来かつて経験した事のない異常な官能行使の要求に応じるに忙しくて、身に迫る危険を自覚し、そうして逃走の第一歩を踏出すだけの余裕もきっかけもないのであろう。ともかくも運命の環は急加速度で縮まって行って、いよ・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・しかしせっかく遠方から取寄せても、それが私の要求に応じるものでなかったら困ると思って、そのままにしてある。どうせ取寄せるなら、どこか、イギリス辺の片田舎からでも取寄せたら、そうしたらあるいは私の思っているようなものが得られそうな気がする。・・・ 寺田寅彦 「石油ランプ」
・・・これはただ通俗的な譬喩に過ぎないが、とにかく心理的に感ずる時の長短が人間自身ならびに周囲の物質的エントロピーの増加の多少と、いくぶんか相応じるように見えるのは興味のある事である。冬眠の状態にある蛙が半年の間に増大させるエントロピーの量は、覚・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ 意識するということは、生理的に知覚すること――ただある音がきこえた、ただあることがみえた、そして、きこえた音、見えたものごとから人間の神経がそれに応じる一定の反射作用をおこした、ということではない。意識するということは、知覚されたもの・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・殊に、零点の置きどころを改革するというような、いわば、既成の仮設や単一性を抹殺していく無謀さには、今さら誰も応じるわけにはいくまいと思われる。しかし、すでに、それだけでも栖方の発想には天才の資格があった。二十一歳の青年で、零の置きどころに意・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫