・・・俗に打てば響くと云うのは、恐らくあんな応対の仕振りの事を指すのでしょう。『奥さん、あなたのような方は実際日本より、仏蘭西にでも御生れになればよかったのです。』――とうとう私は真面目な顔をして、こんな事を云う気にさえなりました。すると三浦も盃・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・が、彼の妹は時々赤児をあやしながら、愛想の善い応対をするだけだった。僕は番茶の渋のついた五郎八茶碗を手にしたまま、勝手口の外を塞いだ煉瓦塀の苔を眺めていた。同時にまたちぐはぐな彼等の話にある寂しさを感じていた。「兄さんはどんな人?」・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・彼女も愛嬌そのもののように滑かに彼と応対していた。が、彼等の話している言葉は一言も僕にはわからなかった。(これは勿論僕自身の支那語に通じていない為である。しかし元来長沙の言葉は北京 譚は鴇婦と話した後、大きい紅木のテエブルヘ僕と差向いに・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・その婦人は三十何年間日本にいて、平安朝文学に関する造詣深く、平生日本人に対しては自由に雅語を駆使して応対したということである。しかし、その事はけっしてその婦人がよく日本を了解していたという証拠にはならぬではなかろうか。 詩は古典的で・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・予の屡繰返す如く、欧人の晩食の風習や日本の茶の湯は美食が唯一の目的ではないは誰れも承知して居よう、人間動作の趣味や案内の装飾器物の配列や、応対話談の興味や、薫香の趣味声音の趣味相俟って、品格ある娯楽の間自然的に偉大な感化を得るのであろう・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・それも真面目な依頼ではなく、時々西洋人が来て、応対に困ることがあるので、「おあがんなさい」とか、「何を出しましょう」とか、「お酒をお飲みですか、ビールをお飲みですか」とか、「芸者を呼びましょうか」とか、「大相上機嫌です、ね」とか、「またいら・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ が、沼南の応対は普通の社交家の上ッ滑りのした如才なさと違って如何にも真率に打解けて対手を育服さした。いつもニコニコ笑顔を作って僅か二、三回の面識者をさえ百年の友であるかのように遇するから大抵なものはコロリと参って知遇を得たかのように感・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・その上に重厚沈毅な風に加えて、双眉の間に深い縦の皺を刻みつつ緊と結んだ口から考え考えポツリポツリと重苦しく語る応対ぶりは一見信頼するに足る人物と思わせずには置かなかった。かつ対談数刻に渉ってもかつて倦色を示した事がなく、如何なる人に対しても・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・なにも知らない温泉客が亭主の笑顔から値段の応対を強取しようとでもするときには、彼女は言うのである。「この人はちっと眠むがってるでな……」 これはちっとも可笑しくない! 彼ら二人は実にいい夫婦なのである。 彼らは家の間の一つを「商・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・女中さんにも、棒を呑んだような姿勢で、ひどく切口上な応対をしていた。自分ながら可笑しかったが、急にぐにゃぐにゃになる事も出来なかった。食事の時も膝を崩さなかった。ビイルを一本飲んだ。少しも酔わなかった。「この島の名産は、何かね。」「・・・ 太宰治 「佐渡」
出典:青空文庫