・・・が、友だちはそれで黙っていても、親戚の身になって見ると、元来病弱な彼ではあるし、万一血統を絶やしてはと云う心配もなくはないので、せめて権妻でも置いたらどうだと勧めた向きもあったそうですが、元よりそんな忠告などに耳を借すような三浦ではありませ・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・「拝啓、貴下の夫人が貞操を守られざるは、再三御忠告……貴下が今日に至るまで、何等断乎たる処置に出でられざるは……されば夫人は旧日の情夫と共に、日夜……日本人にして且珈琲店の給仕女たりし房子夫人が、……支那人たる貴下のために、万斛の同情無・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・「それで僕は美代ちゃんに忠告しようかと思っているんだがね。……」 僕はとうとう口を辷らし、こんな批評を加えてしまった。「それは矛盾しているじゃないか? 君は美代ちゃんを愛しても善い、美代ちゃんは他人を愛してはならん、――そんな理・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・いのに、秋の末の十二社、それはよし、もの好として差措いても、小山にはまだ令室のないこと、並びに今も来る途中、朋友なる給水工場の重役の宅で一盞すすめられて杯の遣取をする内に、娶るべき女房の身分に就いて、忠告と意見とが折合ず、血気の論とたしなめ・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・これを聴かされた日、僕は、帰って来てから吉弥にもっと顔をみがくように忠告した。かの女の黒いのはむしろ無精だからであると僕には思われた。「磨いて見せるほどあたいが打ち込む男は、この国府津にゃアいないよ」とは、かの女がその時の返事であった。・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・いかに深く理解するかによって、その作品は、児童の真の友達となり忠告者となり、最もよき代弁者ともなるのであって、いまゝでの如く強圧することのかわりに、内部的に感奮興起せしむるに至るのであります。常に、いゝ作品は、強いられたる感激でなくして、実・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・文学を勉強しようと思っている青年が先輩から、まず志賀直哉を読めと忠告されて読んでみても、どうにも面白くなくて、正直にその旨言うと、あれが判らぬようでは困るな、勉強が足らんのだよと嘲笑され、頭をかきながら引き下って読んでいるうちに、何だか面白・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・丸刈りにしていった方がよかろうと忠告してくれる人もあったが、私は少々叱られても丸刈りにはなりたくなかったのである。ところが検査場では誰も私の頭髪を咎める者はなかった。ただ身長を計る時、髪の毛が邪魔になるので検査官が顔をしかめただけであった。・・・ 織田作之助 「髪」
・・・これが、普通の男なら、おれもあの女だけはよせと忠告するところだが、相手が川那子だから、言っても無駄だと思って黙っていたんだよ」 とかなり手きびしく皮肉ってやったが、お千鶴は亭主のお前によりも、従妹にかんかんになっていたので、おれの言うこ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・これは僕が友人として忠告するんだがね、そんな処に長居をするもんじゃないよ。それも君が今度が初めてだというからまだ好いんだがね、それが幾度もそんなことが重なると、終いにはひどい目に会わにゃならんぜ。つまり一種の詐欺だからね。家賃を支払う意志な・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
出典:青空文庫