・・・鹿児島でも、快晴であったし、眩しい程明るくもう夏のように暑かった故か、長崎が雨なのは却って一つの変化でよかった。私共は、急に思い立って来たので、宿も定めてはない。先年、長崎ホテルに泊って、そのさびれた趣をひどく長崎らしいと味った知人から、名・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・日向で青島へ廻った日、鹿児島で一泊したその翌日、特に快晴で、私達は、世にも明るい日向、薩摩の風光を愛すことが出来た。五月九日という日づけにだまされ、二人とも袷の装であった。鹿児島市中では、樟の若葉の下を白絣の浴衣がけの老人が通るという夏景色・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 東京から一人新しい連れが加ったりしたので、十六日の快晴を目がけ、塩原まで遠乗りした。緩くり一時間半の行程。皆塩原の風景には好い記憶をもっていたのでわざわざ出かけたのであったが、今度は那須と比較して異った感じを受けた。箒川を見晴らせ・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ 十八日は、空の色が目にしみる快晴であった。五月で、躑躅が咲いていた。濃い紅の花が真新しい色の材木や庭石の馴染まないあらつちに照りかえした。石川からその朝になって事情をきかされた職人達は、「へえ、そいつはことだ」と驚いた。「・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・ 朝のうち曇って居たが午近く快晴。くに、奇麗な髪で、おめでとうを述ぶ。自分達も改まった装はしたが一向正月らしからず。山の奥だから何だかぱっとしないのか、宿屋の風がそうなのか。玄関の松飾と女中の髪だけに表象される新年。正月二日・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・そこへふっさり幹を斜に空から後期印象派風の柳が豊富な葉を垂らし、快晴の午後二時頃人声もしないその小道を行くと、何と云おう――様々な緑、紅緑、黄緑、碧緑、優しい銀緑色の清純な馨ばしさ、重さ、燦めきが堆団となっていちどきに感覚へ溢れて来る。静け・・・ 宮本百合子 「わが五月」
出典:青空文庫