・・・彼はついに枕を噛みながら、彼自身の快癒を祈ると共に、併せて敵瀬沼兵衛の快癒も祈らざるを得なかった。 が、運命は飽くまでも、田岡甚太夫に刻薄であった。彼の病は重りに重って、蘭袋の薬を貰ってから、まだ十日と経たない内に、今日か明日かと云う容・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・ある日上様清八を召され、富士司の病はと被仰し時、すでに快癒の後なりしかば、すきと全治、ただいまでは人をも把り兼ねませぬと申し上げし所、清八の利口をや憎ませ給いけん、夫は一段、さらば人を把らせて見よと御意あり。清八は爾来やむを得ず、己が息子清・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・見た所、顔色もすぐれないようだから、あるいはまだ快癒がはかばかしくないのかと思ったが、話して見ると、格別、病人らしい容子もない。そこで安心して、暫く世間話をしている中に、偶然、佐渡守が、いつものように前島林右衛門の安否を訊ねた。すると、修理・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・入院中流産なされ候御婦人は、いまは大方に快癒、鬱散のそとあるきも出来候との事、御安心下され度候趣、さて、ここに一昨夕、大夕立これあり、孫八老、其の砌某所墓地近くを通りかかり候折から、天地晦冥、雹の降ること凄まじく、且は電光の中に、清げなる婦・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・生命もどうかと気遣われたが幸いに快癒したので今度は Rev. G. T. Warner の学校に入ってそこで四年間の修業をした。その間に一度 Cambridge の Trinity College におけるある Minor Scholars・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
出典:青空文庫