・・・且また私の知っている限り、所謂超自然的現象には寸毫の信用も置いていない、教養に富んだ新思想家である、その田代君がこんな事を云い出す以上、まさかその妙な伝説と云うのも、荒唐無稽な怪談ではあるまい。――「ほんとうですか。」 私が再こう念・・・ 芥川竜之介 「黒衣聖母」
・・・ 自由思想家 自由思想家の弱点は自由思想家であることである。彼は到底狂信者のように獰猛に戦うことは出来ない。 宿命 宿命は後悔の子かも知れない。――或は後悔は宿命の子かも知れない。 彼の幸・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・これはさらに自分の思い出したくないことであるが、おそらくその時の自分は、いかにも偉大な思想家の墓前を訪うらしい、思わせぶりな感傷に充ち満ちていたことだろうと思う。ことによるとそのあとで、「竜華寺に詣ずるの記」くらいは、惻々たる哀怨の辞をつら・・・ 芥川竜之介 「樗牛の事」
・・・現象――その現象はいつでも人間生活の統一を最も純粋な形に持ち来たすものであるが――として最近に日本において、最も注意せらるべきものは、社会問題の、問題としてまた解決としての運動が、いわゆる学者もしくは思想家の手を離れて、労働者そのものの手に・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ 次に氏は社会主義的思想が第四階級から生まれたもののみでないことを言っているが、今までに出た社会主義思想家と第四階級との関係は僕が前述したとおりだから、重複を厭うことにする。ただ一言いっておきたいのは僕たちは第四階級というと素朴的に一つ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・この運動に参加したものは年少気鋭の学生であり新思想家であるのを見ても、奴隷化した宗教に対する反感と、いわゆる人道主義と愛というものに対する冒険と憤激とであると見るのが至当であろう。然も現下の支那に於ける思想上の混乱に際し、世界キリスト教青年・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・即ち、作家の態度が第一義に即しているならば、――独り作家に限らない、すべての思想家がまた、――それは、粛殺な気にみち、理想を追求し、信念に燃えているのである。この種のものに対して、私は、芸術が人生的であり真に社会的意義を有することを否定でき・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・ まことに、詩人たり、思想家たる人の言葉にふさわしい。 誰か、人生行路の輩でなかろうか。まさにその墓は、一寸の木標にて足れりとする。殺風景な俗臭の抜けきらぬ、これ等の墓牌より、どれ程、行路病者のさゝやかな木標が、自然に近いか知れない・・・ 小川未明 「ラスキンの言葉」
・・・いかなるイデアリストの詩人、思想家も、彼が童貞を失った後にそれ以前のような至醇なる恋愛賛美が書けるはずはない。自分の例を引けば、「異性の内に自己を見出さんとする心」を書いたとき私はまだ童貞であった。性交を賛美しつつも、童貞であったのだ。・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・実際研究することは読書することであると考えてるかのように見える思想家や、学者や学生は今日少なくないのである。明治以来今日にいたるまで、一般的にいって、この傾向は支配的である。ようやく昨今この傾向からの脱却が獲得されはじめたくらいのものである・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫