・・・欧米でも伝記小説は流行している由であるが、それに対して批評家は、今日のヨーロッパにおける文芸思潮の指導性の喪失の表現として観察している。日本には島崎藤村という現存の老大家を主人公とした伝記小説さえ出現している。一方、文学は質において果して今・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・「おけら共が派手な弁舌で時を得顔な時代思潮を説いているのを見ると」「流れに身をまかせて安きについているようにさえ思われた。」 梅雄はそれでひねくれてしまうのではなく、反動的な生き方をする人々を凡て軽蔑し、その点で姉である松下夫人をも人間・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・その当時、主として『新思潮』の同人たちが、歴史的題材の小説に赴いたことの心理的要因には第一次欧州大戦につれて擡頭した新しい社会と文学の動きに対して、従来の文学的地盤に立つ教養で育った新進作家たちが、一面の進歩性と他面の保守によって、題材を過・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・と、芸術に於ける民族的な特徴を広い偏見のない目で現実の中に見極めて形象化してゆくこと、及び芸術作品に描かれる人間性というものに就いての統一的な掘り下げ等を通じて、新しき時代に役立つヒューマニズムの文芸思潮の内容づけをしてゆくことであろうと思・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・と、自然主義が文芸思潮として移入した明治時代の日本の「要らない肥料が多すぎ」「近代市民社会は狭隘であった」中で自我を未だ自我の自覚として十分社会的に持ち得なかった日本の知識人が「自然主義を技法の上でだけ」摂取し、対象を我におかず「実生活」に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 現代文学が、文芸思潮で動くことをやめ、心理で動いてゆくようになってから既に数年経った。その心理のうねりの間に文学の胚種は護られているのだけれど、文学の壮健な生い立ちのためには文学を導く心理そのものを時々はきびしく吟味してみるのがすべて・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・文芸評論家としての自身の評価のよりどころ、評価の方法として、他の諸篇にふくまれた労作をなしとげている。文芸思潮史としてこの一巻をまとめることを念願したとあとがきに書かれているが、批評及び文芸思潮史の方法として、ここに示されている数歩は、日々・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明瞭な指導性をもつ文芸思潮というものが退潮して後、しかも今日では被うべくもない文化に対する統制が次第に現れようとする時であった。森田たま氏の「もめん随筆」・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・声が響いているばかりで、現実には新たな文芸思潮というべきものも生れなかったし、新しい意味を持った作品の一つも出現しなかった。 この実際の事情は、文芸復興を提唱した一群の作家たちにいい作品を生むためには先ず古典を摂取せよという第二の声を起・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・時代思潮に革命を起こし新時代の光明を彼岸に認めねばならぬ。「吾人は絶対に物質を超越し絶対に心霊に執着せざるべからず」。これを名づけて霊的本能主義と言う。四 浮世は住みにくい。ウルサイ人間とばかな人間との群れに悪党が出没して、・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫