・・・ 自分は今日になっても大川の流のどの辺が最も浅くどの辺が最も深く、そして上汐下汐の潮流がどの辺において最も急激であるかを、もし質問する人でもあったら一々明細に説明する事の出来るのは皆当時の経験の賜物である。 午後に夕立を降して去った・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・ 明治、大正と徐々に成熟して来た日本の文学的諸要素が、世相の急激な推移につれて振盪され、矛盾を露出し、その間おのずから新たな文芸思潮の摸索もあって、今日はまことに劇しい時代である。日本に於てはロマンチシズムが今日どういう役割を果している・・・ 宮本百合子 「意味深き今日の日本文学の相貌を」
・・・ カメラが、こういう青年層へ急激にひろがって行きつつある。手近で、集団的な生活に小さい愉しみをもたらす手段ともなるのであるから、地味な気質の勤労青年たちがカメラにひかれるわけも分る。午ごろ、お濠ばたを通りかかると一時間の休み時間を金のか・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
岩波文庫『魯迅選集』とパアル・バックの『分裂せる家』魯迅という作家が支那の一九二四・五年からの八九年間に亙る急激な社会的推移の間で、この作家の偉大な特質である人間的正義感と民族解放の慾求とをどう成長させたかと云う点で、こ・・・ 宮本百合子 「カレント・ブックス」
・・・ インテリゲンツィアの若い女が勤労者として生活しなければならない必要は、昨今急激に増してきています。しかも、必要によって捕えた職業は常にそのひとの心から好きな仕事でないことが多い。女として職場での条件にあき足りぬことも多い。小学卒業した・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 満蒙事件をきっかけとして、ブルジョア文化は、実に急激に、露骨に反動化しつつある。未組織の文学愛好者、特に婦人の間に多くの読者をもっている三上於菟吉、直木三十五などというブルジョア作家たちは手をつないで軍部の雇作家になった。 われわ・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・しかもそれについて語りかたは、歴史の現実とともに急激に推進されて、わたしたちは、創作方法についてメリー・キューリー夫人が放射能を求めて、黒くて臭い鉱物を煮つめていた時代のように語ってばかりいることは許されない。こんにちジョリオ・キューリーが・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・この重大な契機は、思想が急激に発達した飛鳥寧楽時代においても失われなかった。天皇は、宇宙を支配せる「道」の代表者或いは象徴である。天平時代の詔勅にしばしば現われているごとく、天皇の位を充たされる個人としては、謙遜して「薄徳」と称せられたが、・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・また中年以後に起こる精神的革命なども、多くはこの時期に萌え出て、そうして閑却されていた芽の、突然な急激な成長によるということです。それほどこの時期の精神生活は、漠然とはしていても、内容が豊富なのです。 しかし危険はこれらの一切が雑然とし・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・最近一か年の露国の急激な変化すらも、毎日の新聞電報に注意を払っているものにはともすれば緩徐に過ぎるごとく感ぜられるのである。戦争のもたらした残酷な不具癈疾、神経及び精神の錯乱、女子及び青年の道徳的頽廃、――これらの恐ろしかるべき現象も、ただ・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫