・・・ これは万葉にある歌だがいい歌だと思う。 こんな気持は恋愛から入った夫婦でなくては生じないだろう。 性交は夫婦でなくてもできるが、子どもを育てるということは人間のように愛が進化し、また子どもが一人前になるのに世話のやける境涯では・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・肉体的快楽をたましいから独立に心に表象するという実に悲しむべき習癖をつけられるのだ。性交を伴わぬ異性との恋愛は、如何にたましいの高揚があっても、酒なくして佳肴に向かう飲酒家の如くに、もはや喜びを感じられなくなる。いかに高貴な、楚々たる女性に・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・愛のよろこびや美しい結合に憧れをめざまされるよりも先に、性交への好奇心が石盤刷りのようなあくどさで刺戟されてゆくのは、惨憺たることです。性には人格もあり個性もある。特に女性は人間的な要素が多い。その要素を無視して、性器だけの交渉に中心をおく・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・績は、著者バッハオーフェンが自身の神秘的な観念に制約されつつも、熱心にギリシア、ローマ等の古典文学を跋渉し、章句を引用し、彼以前には、全く空白に等しかった先史の分野に、一夫一婦制以前の社会が単に無規律性交の行われていた原始状態であったのでは・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
出典:青空文庫