・・・が、それよりも先にこの三年間、彼に幾多の艱難を嘗めさせた彼自身の怨敵であった。――甚太夫はそう思うと、日頃沈着な彼にも似合わず、すぐさま恩地の屋敷へ踏みこんで、勝負を決したいような心もちさえした。 しかし恩地小左衛門は、山陰に名だたる剣・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
蟹の握り飯を奪った猿はとうとう蟹に仇を取られた。蟹は臼、蜂、卵と共に、怨敵の猿を殺したのである。――その話はいまさらしないでも好い。ただ猿を仕止めた後、蟹を始め同志のものはどう云う運命に逢着したか、それを話すことは必要であ・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・ 悪魔降伏。怨敵退散。第×聯隊万歳! 万歳! 万々歳!」 彼は片手に銃を振り振り、彼の目の前に闇を破った、手擲弾の爆発にも頓着せず、続けざまにこう絶叫していた。その光に透かして見れば、これは頭部銃創のために、突撃の最中発狂したらしい、堀・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であるとしていることである。 それが明白なる誤謬、むしろ明白なる虚偽であることは、ここに詳しく述べるまでもない。我々日本の青・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 法華経を広める者には必ず三類の怨敵が起こって、「遠離於塔寺」「悪口罵言」「刀杖瓦石」の難に会うべしという予言は、そのままに現われつつあった。そして日蓮はもとよりそれを期し、法華経護持のほこりのために、むしろそれを喜んだ。 かくて三・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫