・・・果せる哉、鴎外は必定私が自己吹聴のため、ことさらに他人の短と自家の長とを対比して書いたものと推断して、怫然としたものと見える。 その次の『柵草紙』を見ると、イヤ書いた、書いた、僅か数行に足らない逸話の一節に対して百行以上の大反駁を加えた・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・季因是はこれを聴くと怫然として奥へ入ってしまって久しく出て来なかった。趙再思は仕方なしに俟っていると、暮方になって漸く季は出て来て、余怒なお色にあるばかりで、「自分に方鼎を売付けた王廷珸という奴めは人を馬鹿にした憎い奴、南科の屈静源は自分が・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・なおくどく問えば怫然として、面ふくらかして去る。しばらくして石の巻に着す。それより運河に添うて野蒜に向いぬ。足はまた腫れ上りて、ひとあしごとに剣をふむごとし。苦しさ耐えがたけれど、銭はなくなる道なお遠し、勤という修行、忍と云う観念はこの時の・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
出典:青空文庫