・・・本来ならばそんな事は、恐れ多い次第なのですが、御主人の仰せもありましたし、御給仕にはこの頃御召使いの、兎唇の童も居りましたから、御招伴に預った訳なのです。 御部屋は竹縁をめぐらせた、僧庵とも云いたい拵えです。縁先に垂れた簾の外には、前栽・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・呼込んだ孫八が、九郎判官は恐れ多い。弁慶が、ちょうはん、熊坂ではなく、賽の目の口でも寄せようとしたのであろう。が、その女振を視て、口説いて、口を遁げられたやけ腹に、巫女の命とする秘密の箱を攫って我が家を遁げて帰らない。この奇略は、モスコオの・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 畏れ多い話だが、玉音は録音の技術がわるくて、拝聴するのが困難であったが、アナウンサーのニュースを聞いているうちに、「あッ、戦争が終ったのだ!」 と、直感された。 さすがの王仁三郎も五日間おくれてしまったわけだと、私は思った・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・老人 はあ、恐れ多い事でござりまする。愚か者がしらぬ間に犯した罪はさぞ数多いことでござりましょう。法王はやせて骨の目立つ手を老人の毛のうすい頭にのせて黙祷する。それから順々に二言三言感謝の言葉をのべるものや、中には狂的に・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫