・・・アラー、チブスになるわよ、とスエ子[自注9]等は恐慌的な顔付をしたが、まさかそれは大丈夫でしょうから、どうぞ御心配なさらないで下さい。水道をひく相談をはじめたら、なかなかはかどりません。井戸の水はただ。水道は最低九十三銭。だからいらないと裏・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一九四九年度の文学現象の特質は、このつくられた恐慌の裏づけぬきに観察されない。「所謂戦後派と言われたヨーロッパ的小説方法の実践者の運動が、出版景気の減退に伴って不利になって来た」不利は、物的事情にとどまらず、業者とその気分に雷同する一・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ヨーロッパ大戦は、イギリスの経済状態に大変動を起し、とくにここ十年間の恐慌は、過去において子供のための文学を生んでいたイギリスの社会的背景を非常に変化させた。親が貧しくなり、子供らの生活も貧困化し、それは大衆のもっている文化の貧しさを・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・が、その一面プロレタリア文化団体は、小林多喜二の死によってうけた震撼と恐慌によって崩壊を早めつつあった。文学団体が機関誌さえも順調に刊行できず、団体解散の理由を、直接治安維持法の暴力によるものと明言し得ないで、指導者と指導理論の批判に藉口す・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・折から、好況後の経済恐慌によって世間は鋭く現実に目を醒されたと同時に、文学の領域に力強い波頭をもって大衆というものが登場しはじめた。勤労するこの社会の大多数者の芸術化の要望が湧き上って、過去の文学の形式、内容は、全く新しい光りの下に見直され・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ ヨーロッパ大戦後の文学を支配していた心理分析、潜在意識の生活を追究する唯心的な文学は、一九二九年のヨーロッパの大恐慌とその社会事情の変化によって別な人間生活の総体において表現しようと欲する文学運動に道を拓いた。一九三〇年頃からアメリカ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・農村の文化水準は低く、農民は楽しみの少い暗く苦しい日常を送っているのである。農村の恐慌は農民から新聞さえ奪ってしまっているのが今日の現実である。そもそもなぜ農村と都会との間にこのような文化のおびただしい相違が起るのであろうか? 元来、資本主・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・社会主義リアリズムの問題はそのものとして、治安維持法の改悪からひきおこされたさけがたい恐慌は恐慌として、率直明白に別な二つの問題として取扱うところまで、当時のプロレタリア文学者たちは社会人として、理論的に成熟していなかった。悪法によって恐慌・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 世界的な経済恐慌は、この地球の上六分の一を除いたあらゆる国々において、健康で真率な心を持った若い男女を、結婚の問題で苦しめている。結婚年齢のおくれることが一般の傾向となって来たのにたいし、アメリカの百万長者の息子と娘らの間に一つの流行・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・インテリゲンツィアの勤労者階級化の傾向はこれに応じて必然に生じたのであり、更に一九二九年の恐慌以後今日に至る一般の不況は、益々深刻にこの社会的現象を展開させている。十年前に労働予備軍に加った人々の生活が低下しつつある傍ら、新しい青年層の無産・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
出典:青空文庫