・・・川森は恥じ入る如く、「やばっちい所で」といいながら帳場を炉の横座に招じた。 そこに妻もおずおずと這入って来て、恐る恐る頭を下げた。それを見ると仁右衛門は土間に向けてかっと唾を吐いた。馬はびくんとして耳をたてたが、やがて首をのばし・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・貴方が余り目覚しい人気ゆえに、恥入るか、もの嫉みをして、前芸をちょっと遣った。……さて時に承わるが太夫、貴女はそれだけの御身分、それだけの芸の力で、人が雨乞をせよ、と言わば、すぐに優伎の舞台に出て、小町も静も勤めるのかな。」 紫玉は巌に・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・とさも恥入るという容子だった。それから三十年経った今でさえ尚だダアウィンを覗かない私は今でも憶出すと面目ないが、なお更その時は消え入りたいような気持がした。 その時私より三、四十分も遅れて大学の古典漢文科の出身だというYが来問した。この・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・坪内君に対して実に恥入る。かつまた二葉亭に対して彼ほど厚情を寄せられるのを深く感謝しておる。 話は見当違いに飛んで終ったが、坪内君の世間に及ぼした勢力は非常なもので、いやしくも文芸に興味を持った当時の青年は、「文学士春の屋おぼろ」の名に・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・自分なども時々だいじな会議の日を忘れて遊びに出たり、受け持ちの講義の時間を忘れてすきな仕事に没頭していたり、だいじな知人の婚礼の宴会を忘れていて電話で呼び出されたりして、大いに恥じ入ることがあるが、しかたがないからなるべく平気なような顔をし・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
出典:青空文庫