・・・企は失敗して、彼らは擒えられ、さばかれ、十二名は政略のために死一等を減ぜられ、重立たる余の十二名は天の恩寵によって立派に絞台の露と消えた。十二名――諸君、今一人、土佐で亡くなった多分自殺した幸徳の母君あるを忘れてはならぬ。 かくのごとく・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・神の恩寵を感謝する心という宗教の心を、幸福の内容としている人もある。 この現象から、よく人は、幸福は本人が幸福と思うことのうちにのみあるもので、それがなにの中にあるかということは問題にする必要はない、という。 ところで幸福というもの・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・また、アメリカ聖教会機関紙『ウイットネス』は、MRAの労資協調論を批評して「美くしい宗教言辞のかげでMRAはなぜ世界最大の財団デュ・ポンの恩寵をうけねばならないのか」と急所をついている。 ジェスチュアでない世界平和と民主的社会の建設のた・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ いかほどの迫害を受けても、ただ、神の恩寵のみを感じて、想像も及ばない忍従と愛とのうちに神を見、神とともに語った聖者。 または、悲壮な先駆者として、彼の生命を自然律のあらゆる必然のうちに投じて、天と地との一切のものを知り、そして愛し・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・それを見まもる者はその血の歓びを神の恩寵として感じている。その彼らはまた処女の神聖を神にささげると称して神殿を婚姻の床に代用する。性欲の神秘を神に帰するがゆえに、また神殿は娼婦の家ともなる。パウロはそれを自分の眼で見た。そうして「いたく心を・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫