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・・・はじめは医者も私の患部の苦痛を鎮める為に、朝夕ガアゼの詰めかえの時にそれを使用したのであったが、やがて私は、その薬品に拠らなければ眠れなくなった。私は不眠の苦痛には極度にもろかった。私は毎夜、医者にたのんだ。ここの医者は、私のからだを見放し・・・
太宰治
「東京八景」
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・・・一週間、全一週間、そのために寝たっきり呻いていた、足の傷の上にこの体を載せて、歩いたので、患部に夥しい充血を招いたのに違いなかった。 ――どこにいるんだか、生きているんだか死んでるんだか知らないが、親たちが此態を見たら―― と、私は・・・
葉山嘉樹
「浚渫船」