・・・しかし今日はぜひ諸君に聞いていただかねばならぬ用事があったことですから悪しからず許してください。 私がこの農場を何とか処分するとのことは新聞にも出たから、諸君もどうすることかといろいろ考えておられたろうし、また先ごろは農場監督の吉川氏か・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・「どうでしょうか、此方様にも御存じはなしさ、ただ好い女だって途中で聞いて来たもんだから、どうぞ悪しからず。」「どう致しまして、憚様。」 と言ったばかり、ちょいと言葉が途絶えましたから、小宮山は思い出したように、「何と云うのだ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・――子供同士の喧嘩です、先生、どうぞ悪しからず。――さア、吉弥、支度、支度」「厭だが、行ってやろうか」と、吉弥はしぶしぶ立って、大きな姿見のある化粧部屋へ行った。 七「お座敷は先生だッたの、ねえ、――あんなことを・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・に明日の会費を持っているから、これで原口君とか馬越君とか明日出席しない人たちだけ寄って、僕らの最初の心持どおり、君のこのたびの労作に対して心ばかりのお祝いをしたいと思うから、どうかそういうことにして、悪しからず思ってくれたまえ」土井はこう言・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・従って到底御用立出来ませんから、悪しからず御了承下さい。これは全く事実の問題です。気持ちの上のかけ引なぞ全くございませぬ。あなたに対する誠意の変らぬことを、若し出来れば信じて下さい。窓の下、歳の市の売り出しにて、笑いさざめきが、ここまで聞え・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・どうぞ悪しからず。それから潜水夫がお心付けを戴きたいと申しました。」 おれはすっかり気色を悪くして、もう今晩は駄目だと思った。もうなんにもすまいと思って、ただ町をぶらついていた。手には例の癪に障る包みを提げている。二三度そっと落してみた・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・「決して御客様方の人格を疑うような訳ではありませんが、これも職務で御座いますからどうか悪しからず御勘弁を願います」と云う。こう云われてみると私はますます弱ってしまうのであった。私は恐縮して監督と警官に丁寧に挨拶して急いでそこを立去った。別の・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・どうか悪しからず御諒察を願います。 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・ こんな取止めもない事では雑誌に載せて頂くのは如何かと存じますが御返事までに申上げます、どうか悪しからず願います。草々。 寺田寅彦 「書簡(1[#「1」はローマ数字1、1-13-21])」
・・・でも緊急になくて困っていた人があって、いくらでも買えたあの頃の私達の気持では、蔵っておいて虫に喰われるよりは、と思ってのことですからどうぞ悪しからず。 赤ん坊の名前はまだきまりません。セカンドジョンの話しを聞かせたら誰れも知りませんでし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫