・・・父子・君臣・夫婦・朋友、たがいに相妨げずして、おのおのその持前の心を自由自在に行われしめ、我が心をもって他人の身体を制せず、おのおのその一身の独立をなさしむるときは、人の天然持前の性は正しきゆえ、悪しき方へは赴かざるものなり。 もし心得・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・ そうやって描かれた作品の世界が、これまでの丹羽氏の作品がよきにつけ悪しきにつけ持っていた生の肌合いを失って、室生犀星氏の或る種の作品を髣髴とさせることにも、この作品としての問題はひそんでいるのだろう。けれども、なおそれより私たちの心に・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・したがって「善きことをほめるは道理と思ひ、悪しきことをほめるは、我への馳走、時の挨拶と心得る」。しかるに、人によると、悪しきことをもほめる者を軽薄者として怒るのがある。これはばかである。一家中に、主君に直言するごとき家来は、五人か三人くらい・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・なぜなら私は悪しき西洋文明と貧弱な日本文明との混血児が最も栄えつつあるのを見ているのだから。――しかし私は西洋文明を拒絶することによって真に日本的なものが現われるとは信じない。偉大な西洋文明を真髄まで吸収しつくした後に、初めて真に高貴な日本・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫