・・・露都へ行く前から露国の内政や社会の状勢については絶えず相応に研究して露国の暗流に良く通じていたが、露西亜の官民の断えざる衝突に対して当該政治家の手腕器度を称揚する事はあっても革命党に対してはトンと同感が稀く、渠らは空想にばかり俘われて夢遊病・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・今日の状勢において、これはレディの延長と見なければならぬ。卒業後の結婚の物質的基礎を考えるとき、夫婦の「共稼ぎ」はますます普通のこととなり行く形勢にある。のみならず職業婦人には溌剌とした知性と、感覚的新鮮さとを持った女性がふえつつある。古き・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・そして見た状勢を、馳け足で、うしろへ引っかえして報告した。報告がすむと、また前に出て行くことを命じられた。雪は深く、そしてまぶしかった。二人は常に、前方と左右とに眼を配って行かなければならなかった。報告に、息せき息せき引っかえすたびに、中隊・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・が、戦争が起ると、必ず帝国主義ブルジョアジーを代表する政府にとっても、危険な状勢が発生して来る。労働者、農民大衆の××に対する政府の不安は増大して来る。例えばロシアに於ては、日露戦争の後に千九百五年の××が起り、欧洲大戦の終りに近く、千九百・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・「一体、どういう状勢なんですか?」俺は、ワクワクしていた。「そんなこと、訊ねなくッてよろしい! 命令通りすればいいんだ!」 俺のあとから、七十人位やって来た。みな、銃と剣と弾薬を持った。そこで防備は、どこだと思う? 古城子の露天・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・ その大正七、八年の社会状勢はどうであったか、そうしてその後のデモクラシイの思潮は日本に於いてどうなったか、それはいずれ然るべき文献を調べたらわかるであろうが、しかし、いまそれを報告するのは、私のこの手記の目的ではない。私は市井の作家で・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・親戚の者たちは、おまえの本を読んで、どんなことを、と言いかけ、ふっと口を噤んで顔を伏せたきりだったけれど、私には、すべての情勢が、ありありと判った。もう死ぬまで一冊も、郷里の者へ、本を送らぬつもりである。郷土出身の文学者だって、甲野嘉一君を・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・新聞を読むと、ちゃんと書いて在ることなのに、なぜみんな、あんなに得々と、欧洲の状勢は、なんて自分ひとり知っているような顔をしているのでしょう。可笑しいと思います。三、ジャピイは、この二、三日あまり元気が無いのです。日中は、ずっとウツラウ・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・何故ならば、くるしいことには、私は六十、七十まで生きのびて、老大家と言われるほどの男にならなければ、いけない状勢に立ちいたってしまっているのである。私はそれを、多くの人に約束した。あざむいては、ならぬ。いまでは私は、世話しなければならぬその・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・けれども友人の舌鋒は、いよいよ鋭く、周囲の情勢は、ついに追放令の一歩手前まで来ていたのである。この時にあたり、私は窮余の一策として、かの安宅の関の故智を思い浮べたのである。弁慶、情けの折檻である。私は意を決して、友人の頬をなるべく痛くないよ・・・ 太宰治 「服装に就いて」
出典:青空文庫