一 情報局、出版会という役所が、どんどん良い本を追っぱらって、悪書を天下に氾濫させた時代があった。日配が、それらのくだらない本を、束にして、配給して各書店の空虚な棚を埋めさせた。今から三年ばかり前・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 昭和十三年―十五年という年は、一方に戦争が拡大強行されて、すべての文化・文学が軍部、情報局の統制、思想検事の監視のもとにおかれるようになりはじめた時代だった。これまでの文学が、しかけていた話の中途でその主題をさえぎられたように方向を失・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・正月元日に明治神宮の参道をみたす大衆の中に、インテリゲンチャは何人まざっていたかと当時の知識人を叱責した彼のその情報局的見地に立ったものでした。 日本の降伏後、言論の自由、思想と良心と行動の自由があるようになったはずです。でもその現実は・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ きょうの新聞は、内閣情報部で第二回準備委員会をひらき、具体案は民間六人、官庁三人の小委員会の協議にゆだねられることになったと報じている。 先頃朝日に出された記事は、現代の読書するかぎりの日本人の脳裏に深く刻みつけられるものであった・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・そのような作品さえもそこに人間性の諸問題が残っているという意味で情報局は禁止した。これは日本の全人民が、「考える」能力を持つ者であることを情報局と軍部が否定した意味であった。ヨーロッパではドイツファシズムの侵略が大規模に展開しつつあった・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・戦争が進み、情報局がすべての文化統制を行って、文学者やその作品をすっかり軍用に統一しはじめた頃、ひろ子たち一群の作家は、不安な状況に陥った。一九四一年の一月から、ひろ子ははっきり作品発表を禁止されて、それからは却って、立場も心もちもきっちり・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そのために出版業者は情報局の忌諱に触れるものを出したら睨まれて潰されるかも知れないからぐにゃぐにゃになって、できるだけ情報局のお気に入るようなものになって存在しようとする。そういうものに作品を載せねばならないとすれば、腹が立ちながらも、割り・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・けれども、この情報局の局長であった人が、情報局というところで軍部が要求した日本の言論の自由の抑圧、出版の自由のはくだつ、文化、文学、学問の自主性を奪って、戦争宣伝に従わせ、つまりきょうの世代に青春をうしなわせた、その仕事のためにどういう責任・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・をよむと、この作者が外国でも日本でも、質のよくない情報者というか、消息通にかこまれていることがはっきり分る。それらの人々から断片的にあつめたインフォーメエションの上に立ち、而も作家としての立場からそれらの情報、説明を現実に照らし合わせて正当・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・出版に対する検閲は猛烈にやかましくて、何万種類出版物がふえようとも、それらの内容は全く、情報局編輯であるという点では、ただ一冊の本に過ぎないと同じであった。昭和二十年八月まで、日本の中には安心して口をきける場所というものがほとんどなかった。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫