・・・私は男にしろ、女の人にしろ、人生に其の人としての感情、見方をはっきり持っているのを見ると、心を惹かれ興味を覚えます。情感のゆたかな深い点に触れ得る人は好しいものです。〔一九二四年五月〕・・・ 宮本百合子 「異性の何処に魅せられるか」
・・・ 十五六歳のういういしい情感の上にそのさまざまな姿が描かれるばかりでなく、二十歳をかなり進んだひとたちも三十歳の人妻もあるいは四十歳を越して娘が少女期を脱しかけている年頃の女性たちも、率直な心底をうちわってその心持を披瀝すれば、案外にも・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・のなかには、その人たちの生活感情のうちにひそんでいて、しかも日ごろはそこに触れられることのない人間的な要素に、なにかの角度からおとずれてゆく情感があったからにちがいない。それはなんだったろう。医師ラヴィックの生活をとおして全面に描き出されて・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・のシュトラウス夫人では、阿蘭とはちがった、小川のような女心の可憐なかしこさ、しおらしい忍耐の閃く姿を描き出そうとしているのだが、その際、自分の持っている情感の深さの底をついた演技の力で、そういう人柄の味を出そうとせず、その手前で、いって見れ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・だけれども、ありとあらゆる思想にしろ、情感にしろ、行動にしろ、それが現実のものであるならば、ことごとく私たちの肉体を通じて生かされてのみ初めて現実として存在するという事実は何とつきない味いのあることだろう。自分の一生を生きるのは自分であって・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・そして、その情感にあるおくれた低さには自身気づかないままでいがちである。 情感をゆたかに高めるというとき、それがどんなに多くの多様な光りを智慧からうけるものであるか、理智と感情とは対立したものでなくて、流水相光を交し、行動とからんで一体・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・子供といえば母としてのその人たちも考えられるわけなのだけれど、母の情感が人間生活にそんな単純原始な理解しかもたなかったら、どうだろう。どんな洞察こまやかさで子らの成長の過程と人生の曲折を同感し、励ましてやることができるだろう。 この頃い・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・日本の今日の文学は、人間感情のリアリティーとして思意的な感情というものを所謂理性とか理知とかいう古風な形式にしたがった心理の分類によらぬ情緒そのもののリズムとして、情感として、どこまで承認し且それを描き出しているであろうか、と。 これは・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・このジョコンダの微笑は、ながく見つめていると人のこころをもの狂わしくするような内面の緊張した情感をたたえている。じっとおさえて、その体とともにレオナルドとの関係をも動かそうとしなかった貴族階級の女性の激しい思いを溢れさせている。この人間性の・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ブランデスはあんなに鋭く背景となった十八世紀時代の動きを分析していながら『人間喜劇』の作者が、上品な詩的な情感をもっていたから、復古時代にテンメンとしたといっているのですもの。 又今これをかきつづけます。今はもう夜の十二時近く。前の行ま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫