・・・入って一人の労働者として働くことを肯じがたい心持の失望と苦悩、そういう久作の昔気質の職人肌なものの考えかたは女房友代への態度にも発揮されて最後にその久作も情勢の圧力と妻の情愛、仲間たちのさしのばす手、情理をわきまえた理事長の説得などによって・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・『新日本文学』は第四号で、やっと、こういうふうに、かたよった文学人の文学でないもの、あたりまえの社会的人間の情理に立った文学への声を包括しはじめました。こういうふうに行かなくては、『新日本文学』の出る意味がないのです。『真・善・美』とい・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・実に人間らしい情理が一つになったものだわ――そうでしょう?」 重吉の床のわきで羽織のほころびをつくろいながら、ひろ子はそんなことを熱心に話した。もう重吉は、つぎは俺がしてやると云わず、よみかけの書物を枕のわきに伏せながら、仰向きにねてい・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・高をくくって軽く動かそうとされると、猛然癇を立てるけれども、所謂情理をつくして折入ってこちらの面目をも立てた形で懇談されると、そこを押し切る気が挫ける律気で常識的な市民の俤が髣髴としている。五十年の生涯には沢山の口惜しい涙、傷けられた負けじ・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫