・・・ドイツでは、その生活の惨めなことで誰しらぬもののなかったシュレジアの織匠が命がけの悲壮な一揆を起した。この一揆は世界の同情をひいた。シュレジアの地主と工場主と軍隊が流した織匠の血は、すべての人々の胸のうちに正義の憤りをもえたたせた。後年、ハ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・その不幸なる思いがけない出来事によって直接その児が同胞達からいい気持をされなかったと云う事は実にくらべるものない惨めな事である。 よく人は容貌によって愛す愛さないと云う事はないと云うけれ共、一目見て不愉快な感じをあたえる顔をしたものをこ・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・に参加して、戦時国債や貯金の誘説のほかに働き、その名声は、戦争の進行につれて益々被いがたくなって来た国内の生活崩壊の事態を、あれやこれやと彌縫するためにだけ利用されるという惨めな状態に陥ったのであった。 今日、人民全体が既成の「政治」に・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・革命まで、農村の小学校教師がどんな惨めな生活をしたかということは、チェホフが生きていた時分、屡々公憤をもって人にも話し、書きもした通りである。ロシアの農村での文化活動というものは、ツァーの下では無視され、或るときには意識的に低下させられてい・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 私は、自分の同胞が、余り惨めな法律的存在であるのを悲しく思うとともに又こちらの多くの女性が、自分等の善用すべき権利に却って駆使されるのをも見るに堪えない心持が致します。 日本にもやかましく云われる、法律的な離婚問題、離婚と云う事は・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・而も、発育したい希い、より完美な芸術を創始したい熱情に鞭打たれた場合、少くとも自分は、惨めに焦慮する心持を知っている。それが、如何に統一を破るかも知っている。そのために翻って、どんなに製作に向っての無私が必要だか、意識下の均衡が大切だか思い・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・それをとりまく少年たちは、いずれも真面目な心配を顔に現して、惨めな靴をのぞき込みつつ、大股に跟いて歩いて来るのであった。 バクーの市街には、驚くほど古いものと新しいものとが入り混っている。自分はキルションの戯曲「風の町」を思い出し、この・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ こういう惨めな一生をブルジョア時代のロシアの勤労婦人が送らなければならなかったのは一体誰のせいなのでしょう? 男が悪かったのでしょうか? 女を卑めて誰が得したか ところで、その時代=ブルジョア地主のロ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・縮んだ惨めな筋肉ども! 延び拡がって活気をつけろ!ミーダ(ヴィンダーブラの傍に胡坐を組んで四辺誰も未だ帰っていないな。ヴィンダー 俺達のように、意志の明白な者はいない証拠だ。い辛いのに、弱気で堅くなっているんだろう。天帝に媚びれば、・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・そして自分の人格の惨めさに息の詰まるような痛みを感ずる。 しかしやがて理解の一歩深くなった喜びが痛みのなかから生まれて来る。私は希望に充ちた心持ちで、人生の前に――特に偉人の内生の前に――もっともっと謙遜でなくてはならないと思う。そして・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫