・・・あれ、これと文学の敵を想定してみるのだが、考えてみると、すべてそれは、芸術を生み、成長させ、昇華させる有難い母体であった。やり切れない話である。なんの不平も言えなくなった。私は貧しい悪作家であるが、けれども、やはり第一等の道を歩きたい。つね・・・ 太宰治 「鬱屈禍」
・・・どんな悪女にでも、好かれて気持の悪いはずはない、というのはそれは浅薄の想定である。プライドが、虫が、どうしてもそれを許容できない場合がある。堪忍ならぬのである。私は、犬をきらいなのである。早くからその狂暴の猛獣性を看破し、こころよからず思っ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・もっともこれは映像の質量と距離とをほぼ正当に評価し想定するためにそうなるのであって、もしも前述の崩壊する煙突が、実物でなくて小さな雛形であると信ずることができるとすれば現象は不自然さを失ってしまうはずである。起重機のつり上げている鉄塊が実は・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・貸夜具屋が病院からの電話で持込むところと想定してみる。突当りを右へ廻れば病院の門である。しかし車は突当りまで行って止った。そこの曲り角の処で荷物をほごしている。曲り角には家はないはずである。分からない。どう考えてもこの蒲団の行方は分からない・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ちょうど科学者がある実験を想像してその経過を既知の方則で導いて行くと同じように、作者は先ずある人間とその環境とを想定して、作者の把えていると信ずる一種の方則に照らして事件の推移を追究して行くのである。ただこの場合に科学の場合とちがうのは、そ・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・更に彼は、そういう自然力と科学の力との間にある可能を現実とするために決定的な大きい作用をもたらす人間の種類をも計画し、二組の探検隊を想定して、一方はベスファミーリヌイという訓練の出来た、控え目な、自信から発する落つきのある男、一方は甚しく熱・・・ 宮本百合子 「文学のひろがり」
・・・ 図解が昨今は大変趣向にかなうらしくて、この文章にも図入りで新構成の案が出ている中に、放送文化研究所というものが想定されていた。そこでいろいろ研究するのだろうが、それにつれて現在までの放送局の研究的な仕事のうちに、聴取者からの反響は、ど・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
出典:青空文庫