・・・樹から湧こうが、葉から降ろうが、四人の赤い子供を連れた、その意匠、右の趣向の、ちんどん屋……と奥筋でも称うるかどうかは知らない、一種広告隊の、林道を穿って、赤五点、赤長短、赤大小、点々として顕われたものであろう、と思ったと言うのである。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・台石に特に意匠はない、つい通りの巌組一丈余りの上に、誂えの枠を置いた。が、あの、くるくると糸を廻す棒は見えぬ。くり抜いた跡はあるから、これには何か考案があるらしい。お米もそれはまだ知らなかった。枠の四つの柄は、その半面に対しても幸に鼎に似な・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・箱など当時としては随分思いきったハイカラな意匠で体裁だけでいえば、どこの薬にもひけをとらぬ斬新なものだった。なお、大阪市内だけだが、新聞に三行広告も出してやった。 無論、全部おれが身銭を切ってしてやったことで、なるほどあとでの返しはそれ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・そこには私の意匠した縁台が、縁側と同じ高さに、三尺ばかりも庭のほうへ造り足してあって、蘭、山査子などの植木鉢を片すみのほうに置けるだけのゆとりはある。石垣に近い縁側の突き当たりは、壁によせて末子の小さい風琴も置いてあるところで、その上には時・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・あの銀座の有名な化粧品店の、蔓バラ模様の商標は、あの人が考案したもので、それだけでは無く、あの化粧品店から売り出されている香水、石鹸、おしろいなどのレッテル意匠、それから新聞の広告も、ほとんど、あの人の図案だったのでございます。十年もまえか・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・デテイルがないだけに全体の輪郭だけに意匠が集注されるためかもしれない。 インパラという動物の跳躍も見物である。十数尺の高さを水平距離で四十尺も一飛びにとぶのである。何か簡単な器械を人間のからだへつけて、この動物のようにとんで歩くスポーツ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・赤天狗青天狗銀天狗金天狗という順序で煙草の品位が上がって行ったが、その包装紙の意匠も名に相応しい俗悪なものであった。轡の紋章に天狗の絵もあったように思う。その俗衆趣味は、ややもすればウェルテリズムの阿片に酔う危険のあったその頃のわれわれ青年・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・たとえば帽子の代わりにキャベツをかぶって銀座を散歩した男があるとすれば、これは確かにオリジナルな意匠としての記録に価する。しかしこのレコードは決して破られない。なんとならば、再びキャベツを用いたのでは、キャベツを用いたという質的レコードは破・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・それの草稿が遺族の手もとにそのままに保存されていたのを同氏没後満三十年の今日記念のためにという心持ちでそっくりそれを複製して、これに原文のテキストと並行した小泉一雄氏の邦文解説を加えさらに装幀の意匠を凝らしてきわめて異彩ある限定版として刊行・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
・・・例えば山出しの批評も時には三越意匠部の人の参考になるかもしれず、生蕃人の東京観も取りようでは深刻な文明批評とも聞える事があるかもしれない。 この稿を起したもう一つの理由は、友人としての津田君の隠れた芸術をいくぶんでも世間に紹介したいとい・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
出典:青空文庫