・・・方向のなさ、意欲のはっきりしなさ、昨今はみな御同然お互様と云わば近所づきあいの朝夕の挨拶のようなところがあるように思える。 読者の生活が生きている現実の一部として作家の作品の方法や内容と密接にかかわりあってゆく自然な在りようは、考え・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・ 系譜的作品に向う必然にそういう要因のあることもわかるけれども、それならばと云って、多くの所謂系譜的作品が、そういう意味でも意欲的に過去の現実へ立体的にくい下っているとは決して云えまいと思う。 登場人物の性格の或る種の面白い組合わせ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・そうしてこの一点にこそ大きな意欲の集中がある。 かかるが故に、行動主義は間断なき前への飛躍の意味に於いて、あらゆるモダアニズムとモラルを同じくする。ヒューマニズムのモラルの上に立つ行動主義は、必然、個人主義である。しかしこの個・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・歳々を是好年に充実してゆこうとする人間らしい意欲についても、新しい挨拶をおくりたい心持です。〔一九四〇年一月〕 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・芸術は、小さい自分というホウセン花の実のようなものを歴史と社会とのよりつよい指さきでさわって、はぜさせて、善意と探求と成長の意欲を人間生活のなかにゆたかに撒くことでしかなかろうと思う。自分を突破して客観的真実に迫ってゆく歓喜が余り深くこまや・・・ 宮本百合子 「作品と生活のこと」
・・・系譜的作品が時代と人との意欲から生れる発展的な生活の物語とならず、いわば流転譚の域から脱し得なかった理由がここにある。 風吹けばそよぎ、雨ふればそれなり濡れそぼたれた女主人公の姿が、今は、眼の隅で周囲を細大洩らさず見とおしながら、そのよ・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・先ず、作品と作者との関係は、作者の主観的な意欲や創作熱意だけで解決する簡単なものではない。一方的に作者の主観的な意欲や創作熱に基いて表現的努力にばかり傾いて行くと、そこには作品の制作という作品そのものの支配はあっても、作者と作品との関係に対・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・外から与えられたように感ぜられる命令、――この事をしろとかあの事をしてはならぬとかいう命令はすべて力のないものに見え、ただ自分の意欲することのみが貴いと思った。自分の内から出てやる自己否定という如きものも、実は内に喰い入っている外来の権威へ・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・四 我々はもういくらかの人生を見て来た、意欲して来た、戦って来た。その体験は今我々の現在の人格の内に渦巻きあるいは交響している。我々の眼や我々の意欲は、このオーケストラを伴奏としてさらに燃え、さらに躍動しようとする。そうして・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・今にして私は「過去を改造する意欲」の意味がようやくわかりかけたように思う。「過去」の重荷に押しつぶされるような人間は、畢竟滅ぶべき運命を担っているのであった。忘却の甘みに救われるような人間は、「生きた死骸」になるはずの頽廃者に過ぎなかっ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫