・・・、しっかりなすって、自分でお雪さんが頼母しがるような方でなくっちゃ可けますまい、それですのにちょいちょいお見えなさいまする、どのお客様も、お止し遊ばせば可いのに、お妖怪と云えば先方で怖がります、田舎の意気地無しばかり、俺は蟒蛇に呑まれて天窓・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・そういう質の智慧のある人であるから、今ここにおいて行詰まるような意気地無しではなかった。先輩として助言した。「君、なるほど火の芸術は厄介だ。しかしここに道はある。どうです、鵞鳥だからむずかしいので。蟾蜍と改題してはどんなものでしょう。昔・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・これで死んだ日にゃあいい意気地無しだ。「縁起の悪いことお云いでないよ、面白くもない。そんなことを云っているより勢いよくサッと飲んで、そしていい考案でも出してくれなくちゃあ困るよ。「いいサ、飲むことはこの通りお達者だ、案じなさんな。児・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・あんな意気地無しの卑屈な怠けものには、そのような醜聞が何よりの御自慢なのだ。そうして顔をしかめ、髪をかきむしって、友人の前に告白のポオズ。ああ、おれは苦しい、と。あの人の夜霧に没する痩せたうしろ姿を見送り、私は両肩をしゃくって、くるりと廻れ・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫