・・・記者として働く一人一人が、当時新しく強く意識された人格の独立を自身の内に感じ、自分が社に負うているよりも、自分が正にその社を担っている気風があった。しかしここで注目すべきことは、日本では、明治開化期が、二十二年憲法発布とともに、却って逆転さ・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・「どう思って遣っているのだね。」「どうも思わない。作りたいとき作る。まあ、食いたいとき食うようなものだろう。」「本能かね。」「本能じゃあない。」「なぜ。」「意識して遣っている。」「ふん」と云って、小川は変な顔をし・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・それぞれ人人は何らかの思想の体系の中に自分を編入したり、されたりしたことを意識しているにちがいない現在、――いかなるものも、自分が戦争に関係がないと云えたものなど一人もいない現在の宿命の中で、何を考え、何の不平を云おうとしているのであろうか・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・ けれども私は、同じく自分の凡庸を意識していても、それをごまかそうとかかっている人に同情する事はできません。彼らは何らかの点で自分を是認し安心しようとするのです。私はこういう人の前に出ると、ひどい腐敗の臭気を感じます。そうして、悲しむべ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫