・・・という言葉を聞いて愕然として驚いたのであった。物理学者にはいつでも最初が質的で次に量的が来るのに、ここではそれが正反対なのである。しかしあとでよく考えてみると、物理でもやはりプランクトンと同様なものを、水産学におけると同様に取り扱っているこ・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・の心を学び知って、愕然として驚きまた恐れなければならなくなったようである。そうして私はまたこの夢の心理なるものがはなはだしく連句の心理に共有なる諸点を備えていることを発見して驚かなければならないのである。 フロイドの考えでは顕在的な「夢・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・予之ヲ聞イテ愕然タリ。其ノ故ハ何ゾヤ。疇昔余ノ風流絃歌ノ巷ニ出入セシ時ノコトヲ回顧スルニ、当時都下ノ絃妓ニハ江戸伝来ノ気風ヲ喜ブモノ猶跡ヲ絶タズ。一旦嬌名ヲ都門ニ馳セシムルヤ気ヲ負フテ自ラ快トナシ縦令悲運ノ境ニ沈淪スルコトアルモ自ラ慚ヂテ待・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 今日、林、小林その他一部の作家によって或る意味では愕然としたようにブルジョア作家の大衆からの游離が注目せられ、しかもその対策として、現在勢力ある官吏、軍人、実業家の中心課題を文学の課題として、「大人の文学」を作らんとすることは、これま・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・土間に撒かれた麦を啄んで行くうちに、雄鳩は愕然として覚えず烈しく翼で地面を搏きながら低く数尺翔んだ。今いたのは何物であろう。啄むうちに、また雄鳩は怪しいものが目を掠め去ったのを感じた。恐怖と好奇心が彼の内に生じた。雄鳩は麦粒を拾うことを忘れ・・・ 宮本百合子 「白い翼」
・・・そこで二階の踊場へ姿を現すと、愕然として、麻雀は自分が麻雀だったのを思い出したらしい。さて、とスワンソン張りにポーズし、眼瞬きの合図をし、シュラッギングをし、さも図太い女賊らしくテーブルに飛びのって一同をさしまねく。――そのうつり変りの間に・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・そして、くたびれて眠ると、夜中に枕元でその鼠か別の鼠かがあばれて、一度は顔の上をとびこされて、暗闇に愕然と目をあけたことがあった。 いま鳩麦をかじった鼠にも、格別の好意はないのだけれども、その齧りかたが一定の方法をもっていて、しかも何百・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・ みのえは、愕然として意識がはっきりすると一緒に、母親が自分の子をひとに押しつけ、身軽に油井を迎え、喋ろうとしているのを感じ、泣きたいようになった。 みのえこそ、真先にとび出したい者であった。けれども彼女は、パッと襖の立て合せから条・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
出典:青空文庫