・・・ ゆえに真の愚民に対しては、政府まずその愚を容れてこの水掛論の処置に任せざるべからずといえども、本編の主として論ずる学者にいたりては、すなわちこれを愚民と同一視すべからず。この流の人は、改進政談家をもって自からおり、肉を裁するをいさぎよ・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・国民にして政治の思想なきは、唐虞三代の愚民にして、名は人民なるもその実は豚羊に異ならず。ともに国を守るに足らざるものなれば、いやしくも国を思うの丹心あらんものは、内外の政治に注意せざるべからず。 政治の事、はなはだ大切なりといえども、こ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・政府の放送委員会案というものが、はじめの放送委員会と本質的にちがうことは、日本のラジオを愚民政策の道具にしたくない人々の反対のきびしさを見てもはっきりしている。 政府は、表面民主的な委員会を次から次へこしらえている。それが日本の人民の発・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・ラジオの娯楽版、大人と子供の世界をひたす漫画とともに、愚民教育の掘割の幅をひろげた。一九四九年に、この近代擬装エナメルの色どりはげしいギラギラした流れの勢が、どのように猛烈であったかについて『人間』十二月号の丸山真男・高見順対談の中で、高見・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・この欲望は、非民主的な娯楽の愚民政策と一致している。 最近の二年間に多くの自立劇団、美術、音楽、詩、小説、科学のグループをもちはじめた日本の労働組合員は、彼らの休日の大きい楽しみである映画が、輸入ものかさもなければ愚劣な日本ものしかなく・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・文化の上で愚民政策をとり、民族の自立的な文化能力をうちこわしつつある人が審査する教員の資格は、どこにめやすがおかれるものだろう。最近民主主義教育者協会に加えられた紛糾の折、東宝社長が都の当局者に教員資格審査委員としての圧力を加えて、反民主的・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・笑いやスペクタクルによって精神の集中を溶け去らせる愚民化の方法である。ワグナーがオペラをプロシア皇帝の治世の具として自薦したとき、はっきりそのことを云った。それでニーチェは、ワグナーと絶交したのだった。〔一九五一年一月〕・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・というものが、いつも、愚民教育と粗悪なジャーナリズムの植民地として「いやに大切に」芸術ときりはなして扱われる悲劇をくりかえしています。 二(A) 科学技術者をテーマとした作品は、むずかしいからでしょう。多く・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・ ワグナーは晩年には、音楽は民衆をたやすく統治するための有効な手段だと皇帝に書いて、オペラの隆盛を援助させた。愚民政策としてすすめている。しかも一九三〇年には生みの親のブルジョア社会の感覚が古典的オペラへの興味からくずれ出してレヴューだ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・内と外からの愚民教育に対して、わたしたち人民の男女は責任あるたたかいをつづけなければならない。〔一九五〇年八月〕 宮本百合子 「地球はまわる」
出典:青空文庫